庭と夜のうた 森亮

 先月に岩波文庫「ヘリック詩しょう」森亮訳について、取り上げたときに、
この翻訳者である森亮さんの自費出版詩集「庭と夜のうた」がでてきたら、
そのときに話題にすると記しておりました。
 昨日に自宅をかたづけておりましたら、はっきりと分かる場所に、この
詩集は放置されていました。これなら、いままで探していたとこが、まったくの
見当違いの場所であったと思います。ちゃんとごこかにしまってあると思うのが
間違いのはじまりでした。
 自費出版で500部という詩集でありますが、そのまえがき(はしがき)には、
次のようにあります。
「 人目にさらすという荒っぽい言い方がゆるされるなら、ここに集められた
三十編を少し越える詩はそれほどためらわず人目にさらすことのできる私の
作品のほとんどすべてである。 
 制作年代は、数え年29歳の昭和14年から51歳の昭和36年に至る23年間で
ある。・・・
 『晩国集』の最後に置かれた『夜の歌』が出来たのが昭和36年の2月某日で、
自分でいうのも変な話であるが、自作の詩はもうこの辺でやめにしてもよいと思った。
そんなそんな気のゆるみのせいか、その後は祝婚等の挨拶の詩のほかほとんど詩作は
ない。
 それでも幸い私には訳詩という避難所があるので、リズムを組み立てたりする
興味はその方で満足させている。」

 この詩集には「夜のうた」という同名の詩がふたつのっているのですが、本日
紹介するのは、昭和33年1月のもの。

「 星が流れなくても天窓はたのしい。
  わたしが泊まった田舎の家で、
  それは真夜中の闇にぽっかりと浮かんで
  ふと目をさましたまま眠らないわたしを見まもる。 
  ほの明るい四角なわくはさながらわが心にひらいた天窓。
  どんな透明な思いが入ってくるのかとわたしは受け身になって
  待っていた。」