岩波文庫のタイトルになっているのは、「しょう」の字が 金へんい少の字を書く
ものとなっています。これが普通では変換されないものですから、昨日の件名とした
ときには、岩波文庫のタイトルとおりで「詩しょう」とひらがなとしています。
金へんに少の字なんて、ほとんどみたこともなくて、どうしてこのような字を使った
のでありましょう。
これについては、翻訳者の森さんの「はしがき」にかかれているのでした。
この詩集の原題は「ヘスペリティーズ」というのだそうです。
「 詩集の題名はギリシャ神話に拠っている。主神ゼウスの妻のヘラに贈られたと
いう黄金の林檎が実る園を守った四人の姉妹のニンフたちの総称がヘスペリティーズ
で、それが林檎園そのものの呼び名にもなった。しかも園のある場所が世界の西の
果ての幸える島と考えられていたことから、ヘリックはデヴォン州という西の国で
作った詩を収めた歌集の標題に転用したのであった。・・・
かって私はこの詩集の標題を邦訳しようと試みたことがあり、二種類の訳名を
思い附いたが、この本では原詩集は(その片かな表記でも、邦訳名でも)表面には
ださず『ヘリック詩しょう』を書名とすることとした。
しょうは、当用漢字表にも常用漢字表にも入っていないが、いよいよ本にしようと
いうときになって私の好みでこれを採ることにした。・・・・
なお訳詩について一言すれば、私の翻訳は原作を丁寧に読み、作者がいおうと
していることを日本語の詩として歌い直そうとする試みで、一口にいえば、意訳を
主義としていた。わがままな方針のように聞こえるかもしれないが、私としては翻訳で
ある以上原作の手のひらの上で忠誠の踊りを踊っているにすぎないと思っている。」
この詩集のなかから、いまの季節にふさわしいものはないかと思いましたが、すぐに
は見つけることができずであります。それで、かわりに次の作品を。
「 夜 警
おやすみなされい、火事無用
刃傷・殺害おん身に及ばず。
いと楽しい夜の眠りをおびやかす
わざはひといふわざわひから
神の慈悲にて皆様かたまぬかれ召され、
魑魅ゆめゆめ寝床を襲ひませぬやう。
一時過ぎ申した、押っ附け二時。
西の町、東の町の旦那衆、あしたは晴れと読めました。 」