今年最後の一冊

 大晦日は女性たちは、夜のごちそう作りで忙しいので、食料の
買い出しは男たちの仕事となります。いつものスーパーは、普段よりも
買い物かごをもったおやじたちが目立つのでした。
 おとこだけで買い物にいきますと、寄り道でブックオフによったと
しても、何もいわれることなしで、まさに忙中閑ありという気分です。
 本日にブックオフに立ち寄ったのは、気になっている単行本の値札が
つけかわって、ディスカウントされているのではと思ったからであり
ますが、これは残念ながら、空振りでありまして、また次の機会と
いうことになりました。
 たいして期待もせずに105円棚を見ておりましたら、犀のマークが
目に飛び込んできました。105円のところに犀の本がありましたら、
よほどでなければ購入するのでありますが、本日のは、小林信彦さんの
「パパは神様じゃない」でありました。このタイトルの本があることは
承知しておりましたが、オヨヨと同種の小説であろうと思っておりました。
 はじめにのところを読んでみましたら、これは小林流の育児本である
ことがわかりました。

「 私の手もとに、二冊の分厚い育児書がある。
 一冊は『スポック博士の育児書』であり、もう一冊は松田道雄氏の
 『育児の百科』である。
 いうまでもなく、スポック博士は、ノーマン・メイラーが『夜の軍隊』
 で描いた反戦デモにおいて逮捕され、松田道雄氏もまた、今日、もっとも
 信頼しうる知識人として私の尊敬するかたである。私の上の娘は
 『スポック博士の育児書』によって育ち、生まれて間もない下の娘は
 『育児の百科』に負うところが大であろうと思われる。・・・
 母親に語りかけるスポック博士、赤ん坊の立場に身をおいた松田先生、
 いずれも父親が何をしたらいいのか?という重要なポイントに関しては
 筆をさいていらっしゃらない。・・
 育児書が次々に出版されたとしても、父親の立場にたった育児書という
 ものは、まずはでないであろう。要するに、父親は差別されている。
 そして、また、育てたとしても、私の家の場合、女の子であるから、
 冷たく家をでてゆくにちがいないのだ。!」  

 このはしがきにある「ノーマン・メイラー」は、ことしに亡くなり
ましたし、松田道雄さんの「育児の百科」は三分冊で岩波文庫に入り
ましたから、このはしがきは、今年のしめくくりにふさわしいものと
思うのでありました。