幸運な医者 2

 松田道雄さんの遺著「幸運な医者」(岩波書店 1998年10月刊)を話題にしていま
す。松田さんは、98年6月に亡くなっていますので、亡くなるすこし前までに発表され
た文章などを収録しています。( 書名となっている「幸運な医者」は岩波の「図書」に
亡くなってから掲載されたものですが、その時点で読んでいるはずでありますが、こんな
にも記憶に残っていないかと、自分のことではありますが驚いています。)
 なぜ自分は「幸運な医者」であるのかというのを記しているのですが、その理由は大き
くは二つであります。
 ・ ひとつは開業医の家にそだったことである。小児科の開業医はどんな生活をするの
  かを子どもの時からみていた。
 ・ わたしが医者として幸運だったもうひとつのめぐり合せは、育児書をかいたこと
  だ。自由診療しかしないでは医者で食っていけなかった。それで副業として育児書を
  かいた。
 
 開業医の家に育ったことが幸運というのは、親が経済的に恵まれていたことを幸運と
いっているわけではなくて、「医者というものは、こういうものだと肌で感じながら大き
くなった。」ことをよかったといっているのです。
 開業医であった父親は、金銭に淡泊で、三十年も開業医をして亡くなるまで借家住まい
であったとのことです。「父の死語、母や妹が困ったので私はもう少し金をもうけないと
いけないと思った。」と松田さんは書いています。昔の町医者というのは、どのくらい
の収入レベルが標準かわかりませんが、松田さんのところは、別格ですくなかったので
ありましょう。