
- 作者: 大岡昇平
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2001/03/09
- メディア: 文庫
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「成城だより」は作家の大岡昇平が「文学界」に連載していた日記スタイルの
エッセーであります。小生が、このブログを記するために参考としておりますのは
文芸春秋社よりでた三冊本でありますが、現在、入手できるのは講談社文芸文庫版
のみであるようです。
元日の記録があるのは、82年1月と85年1月とであります。そのとき大岡昇平
さんは、73歳と76歳とありますが、ずいぶんとお元気な日々をすごしている
ようでありまして、戦争で生き残った人は強いことだとおもいながら、つぎのような
くだりを読むのでありました。
まずは、82年1月1日の日記
「 大晦日の23:30より05:26まで、『新潮』中村光夫『時の壁』340枚
読了。彼として恐らくはじめて学生時代の左翼運動の経験を書きたるもの。昭和初年の
街頭ルポの状態、平明に書かれあり、大人の文章なり。・・・
西片町小町といわれた美貌の姉について『二、三人の学生が振り返った』とだけ、
家庭的謙遜と抑制をもって描く。・・・
それより10:50まで眠って、老妻と差し向いの新年となる。お目出度うの言葉も
出ず、おせちも作らず、門松も日の丸も出さず、ひっそりとした休日とす。
年末と新年は連続し、殆ど同じものなり、とは毎年かわらぬ感想なり。
われ一昨年末、懸案の『富永太郎全集』を片づけるため、この発表日記を一年休むと
宣言し、実行しありたる間に、多くの異変あり、・・・・」
夜更かししてテレビなどを見ていて、本も読まずにいて、今年の一冊目はなにを
読もうかなんて思っているのですが、大晦日の深夜から翌朝にかけてを文芸誌に一挙
掲載となった中村光夫の新作を読むとはすごいこと。中村光夫の、この美貌の姉という
人は、だれか有名人の奥さんになっていたんだっけな。(どっかで、中村光夫の
姉妹についてのことを見たことがあったのだが。調べてみて思い出しました。これは
深田久弥夫人でして、角川文庫「百名山の人」(?)にあったのでした。)
それから3年たつと、次のようになります。
85年1月1日の日記
「 九時、雑煮、おせち、食べすぎとなる。目出度い感じはとっくになく、従ってその
言葉も出ない。正月とは暮れの連続の意識のみなり。マス・コミ連日一年の総決算を
特集して、NHK紅白歌合戦と除夜の鐘実況にて二つの年を繋ぐ。ただし、近頃、紅白
養老番組となりてより、失礼してベッドへもぐり込む。十年前白内障手術してより、
眼に悪いから長時間のテレビ番組はごめんこうむっている。今年は『浪花節だよ人生は』
が、細川たかし、水前寺清子の競演とあっては尚更なり。・・・
わが新年は深夜より始まることになり、老人は本を読んで過ごすほかはない。
まずは年の始めの読書なれば、肩のこらない、楽しいものをということになる。
一昨年は飯島耕一の楽しき『永井荷風』だった。昨年は『パルムの僧院』のさわりを
読み返した。今年ランボーだった。」
前段では、このようにまだおだやかなのですが、後段は、「わが爽快なる元旦は、
『海燕』の机上にあることによってかげりたりというべし。」というくだりから、
吉本隆明とのバトルについての記述で、にわかに険しくなるのでした。
「 吉本は即ち同業者仁義信義に反せり。本文はもとへ戻しかかる陰険なる人物とは、
今後一切のつき合いはお断りする。」
1月1日から、この激しさでありますからして、まったく何を食していれば、このように
元気でいることができるのだろうと、これを記した時の大岡さんよりも20歳ほど若い
小生は、当方のあまりの毒のなさに愕然とするのでした。