- 作者: 池内紀
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2000/01
- メディア: 単行本
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小生は、カフカの世界にはほとんどなじみがないのでありますが、池内紀さんの
あとがきには、次のようにありました。
「ほんのちょっとしたこと、ちいさなてがかりからカフカにはいってみた。
そのつど考えたり、気づいたり、連想したことを書きとめた。動いていると
風景が変わり、目の位置が変化すると別の景色があらわれるように、いろんな
カフカが見えてきた。関心が持続していると、そのひろがりにつれて自由に
なれる。発見のたのしみがある。」
カフカ愛読者にとっては、良く知られているのでしょうが、その不思議な
人間像も含めて、小生には新鮮な話題が満載であります。
「カフカはよく手紙を書いた。」というのが書き出しの1行です。この書簡の
量が半端ではありません。
「本となったのをまとめると書簡全集ができるほどだ。」
いまと違って、通信の手段がほかにはなかったのですから、意志疎通を図ろうと
したら手紙を書くしかないのですが、「父への手紙は一通だけで数十ページに
およぶ」とありますので、やはり普通ではありません。
「 しかしながらカフカは、つまるところ、文学のために独身を選びとって
家庭をあきらめた。健康もあきらめた。というのは、途方もなく無理な生活を
続けていたからである。勤めから帰るとしばらくうたた寝した。それからはね
起き、夜明け近くまで小説を書く。そのあとまた少し寝て、目覚まし時計に
起こされて勤めにでていく。」
ほとんど同時代の読書人には受け入れられることがなかったのに、この生活を
ずっと続けていたというのが、すごいことであります。
カフカの手紙が、現代に伝わっているのは奇跡というしかありません。
「ユダヤ人が、身一つで移動するような時代にあって、膨大な手紙の束を
持ち歩いた。」
手紙の受けとった人たちが、この手紙を処分することはできないと思わせる
力がカフカの文言にはあったのでしょうが、それはほとんどカルトの世界で
ありまして、精神を支配していたとしか思えないのであります。