「深夜快読」

 「深夜快読」は、谷根千でいちやくメジャーになった森まゆみさんの本です。
子どもを育てるシングルマザーとして、昼間は地域雑誌の取材、編集をして
そのほかにも頼まれ原稿などを書いていたのでしょうが、自分の楽しみのための
時間を持つことができた時は、深夜になっていたということで、「深夜快読」と
いうタイトルになるのです。
 森さんは、この本のあとがきで次のように書いています。
「 ようやく家事が片づき、子どもたちが寝しずまる。さあこれからが私の時間、
とワクワクしながら本を読んできた。しかし、それで良い批評がかけたかどうか。
『台所仕事や育児からかすめとった時間で芸術家になれると思うのは幻想だ』
 このメイ・サートンのことばを、三人の子持ちの主婦でもある私は銘記し
よう。
 同じような悩みをかかえる本好きな仲間にこの本をおくりたい。」

 この「深夜快読」という本は、ブックオフで購入したのですが、この本の持ち主は
黄色の蛍光ペンで、ラインを引きながら読んでいた跡が残っています。けっこうよく
読んでいたように見えるのですが、どうして、この本をブックオフに売却して
しまったのでありましょう。
 旧蔵者は、上に引用したあとがきでは、メイ・サートンの言葉のところに黄色の
マーキングがしてあるのでした。

 小生が、この本を購入したのは、この蛍光ペンで線を引きながら読んでいた旧蔵者に
共感してではなくて、森まゆみさんの文章をこのんでいるからです。森さんには、
「走るひとり親」という文庫本があって、これにでてくる別れたご主人のお里との
おつき合いにとっても感じ入ったのでありますが、これは、別の機会にです。
 この本からは、「高校三年生の教科書」という文章のことを紹介です。
 以前に、岡崎武彦さんの「読書の腕前」のことにふれたときに、岡崎さんが、高校の
国語の教科書を手放してしまって、残念に思うということに反応して、小生は高校の
教科書をいまだにもっていると記し、森まゆみさんもどこかで書いていたとふれた
のですが、この文章が収録されているのでした。

「 ふたたび高校三年生の国語の教科書を引っぱり出す。版元は筑摩書房西尾実
臼井吉見木下順二他編とあるが、じつに考え抜かれ、よくできた教科書だとあら
ためて感じた。冒頭に柳田国男『清光館哀史』。つづいて西脇順三郎ギリシャ
叙事詩』、金子光晴『湖水』、小野十三郎『現代史について』。そして森おう外
舞姫』。名ノンフィクション吉田満戦艦大和の最期』。丸山真男『であることと
すること」。夏目漱石の『現代日本の開化』の二つの名講演も収録されている。
1年間にこれだけきっちり読んできっちり考えることができれば、それで充分な気が
する。なにも受けを狙って最新人気作家の作品など必要ないではないか。」

 「1年間きっちりよんできっちり考えると」とありますが、今もむかしも、高校生は
そんなにきっちりとやってはいないのでありまして、小生もここにあがっている文章で
あっても、ほとんど記憶に残っていないものがあるのでした。