「深夜快読」3

 本日も、森まゆみさんの「深夜快読」に触発された「高校現代国語」教科書に
ついての話題です。この場合の教科書は、森まゆみさんがなじんだ筑摩書房
ものでありまして、昨日は芥子色の一年生の教科書でしたが、本日は青の表紙の
2年生のものを話題にします。

 その前に、1年生の教科書にあった教材のいくつかをあげましょう。
小説では山本有三志賀直哉井上靖がありました。
戯曲は木下順二「夕鶴」 記録文はファーブル昆虫記 岩波文庫の訳でした。
随筆は円地文子斉藤茂吉、評論が上原専禄「物の見方、考え方」と中島健蔵
の「読書の孤独」でした。 
 翻訳者として林達夫山田吉彦きだみのる)とであうわけですが、16歳
くらいの時には、この二人の偉大さを理解できるわけがありません。

 さて、それでは青の高校2年現代国語教材です。
小説は太宰の「富岳百景」と中島敦山月記」、漱石「こころ」です、エッセイでは
梅棹忠夫の「発見の手帳」を読むことになります。評論は、安吾の「ラムネ氏の
こと」
 「こころ」は、いまでも教科書にのっているのでしょうか。本年に話題となった
四方田犬彦さんの「先生とわたし」というタイトルを聞いて、これは「こころ」
だなと、すぐに思い浮かべるのは、この時に出会っているからでありました。
教科書では抄録ですので、文庫本をもとめてこの作品を読み通すことになるので
ありました。
 いまでも気になっているのは、梅棹忠夫さんが「発見の手帳」でとりあげている
次の本です。この本については、書き出しのところでいきなりでてくるので
ありました。

「 あの本のことを思いだして、書庫を探してみたが、いつのまにかなくして
しまったらしく、見あたらなかった。メレジュコーフスキーの『神々の復活』と
いう本である。わたしが、この本を読んだのは、高等学校の学生の時で、もう
20年以上も前のことである。あるいは今でも新版がでているかもしれないと
思って、I文庫の目録をめくってみたら、やっぱりあった。米川正夫さんの訳で
昔どおり四冊本ででている。
 それはレオナルド・ダ・ビンチを主人公にした長編小説である。非常な感動を
もって読み終えたことをいまでも覚えているが、なにぶん昔のことだから、
具体的な内容についてはおおかた忘れてしまった。
 そのなかで、ただ一つだけ、たいへん鮮明に覚えていることがある。それは、
ダ・ビンチの手帳のことである。」

 梅棹さんの、この文章は65年4月の「図書」に掲載されたものとあります。
教科書はその翌年にでていますので、ずいぶんと教科書採用まで間がないことで
あります。当時の梅棹さんは、46歳ですから新進気鋭の人類学者で、その後に
「知的生産の技術」なんて本を書いたはずです。
 筑摩教科書で、この文章を読んだ人は、この「神々の復活」をぜひとも読んで
みたいと思ったはずです。その後、岩波がリクエスト復刊のような試みを
行うようになって、この作品は、けっこうリクエストがあったようですが、たぶん、
いまにいたるまで復刊はしていないはずです。小生も端本を古本やでみかけた
ことはありますが、四冊そろいのものは、見たことがありません。
 梅棹さんは、この作品におけるダ・ビンチの逸話に感動して、いつも手帳を
携行してメモをするようになったのですが、作品としては一般うけをするものでは
なくて、梅棹さんの偏愛する作品であるのかもしれません。