「平野甲賀 装幀の本」

 先日にとりあげた晶文社バラエティブックの立て役者の一人が
デザイナーの平野甲賀さんでありまして、60年代後半から最近まで
カウンターカルチャー系からメジャーな作家まで、幅広い分野の書籍を
装幀しているのでありました。
 リブロポートからでている「装幀の本」をみましたら、最も初期に
手がけた本は、64年11月とあります。

「 津野海太郎に連れられて初めて晶文社に行ったときに、亡くなった
小野二郎さんがね、自分で一生懸命に線をひいてこの本のデザインして
いたわけ。それでね見るにみかねて『わたしがお手伝いしましょうか』と
いってやらせてもらったのが、この本なんです。だから小野さんとの
共作ということになるのかな。
 だから正確な意味での最初の装幀というのは『ウェスカー三部作』です
ね。」 
 ちなみにウェスカー三部作は64年12月の刊行であります。
表紙を縦に二分割して、左に写真を配し、右に書名を掲げて、犀の
マークが入るのは、この時代にすでに確立したものであります。
見開きの2ページで、64年から66年までの作品が取り上げられて
いるのですが、そこには木島始「詩 黒人 ジャズ」とか長田弘
「抒情の変革」、ポールニザン「アデンアラビア」などの写真が掲載
されています。

 この時期には、小生がひいきにする小沢信男さんの処女作品集
「わが忘れなば」がでているのですが、その書影は、この「装幀の本」
には掲載されていないのでした。小沢さんが次に晶文社からだした
「東京の人に送る恋文」はのっているのですがね。
 この「わが忘れなば」のデザインについて、小沢さんは平野甲賀
さんがあまりこれの出来がよくないので、自分のアートワーク集に
掲載しなかったのではないかというようなことをいっておられましたが、
本当のところは、わかりません。しかし、そとばこは黒一色で、中の
ほんは白っぽくて、シンプルなデザインで、ひと目で平野甲賀スタイルと
わかるようなものではありません。
 この本を掲載しなかったのは、平野さんがこれのことを隠したいと
思ったからか、それとも晶文社のコレクションのなかに、この作品が
自社本であるにもかかわらず、見つからないためか、ちょっとは気に
なるのでありました。