河合隼雄さん追悼

 文化庁長官であった河合隼雄さんが亡くなりました。河合さんが、いまの
ようにメジャーとなるにあたっては、岩波書店の編集者の力がありました。
この編集者は、のちに社長となる「大塚信一」さんであります。
大塚さんの「理想の出版を求めて」には、河合さんとのであいを次のように
書いています。

「 河合隼雄氏とのつきあいは、いまに至るまで、実に長い間続いているが、
その最初は『コンプレックス』をお願いしたことから始まる。河合氏が
スイスから帰国して1967年に出した本が、『ユング心理学入門』だ。
そのほんを読んでユングに関心を抱いた私は、河合氏に手紙をだした。
 当時、フロイトはそれなりに知られていたが、ユングはほとんど知られて
いなかった。ユングは大変重要な思想家のように思えたが、同時に神秘主義
錬金術にも深く関わる、ちょっと危ない人物に思えた。そこで河合氏と会って
相談し、最初のユングの思想の核心を日本の知的風土の中に広め定着させる
ために、ユングの用いた心理学の用語「コンプレックス」を中心に紹介して
もらうことにした。」

 本日のしめは、河合隼雄さんが、岩波書店の「転換期における人間」という
叢書の内容見本によせた文章を、はりつけておくことにしましょう。
「  豊かなコスモロジーの創出に向けて

 現代は物の豊かさに比して心の貧困さが問題といわれる。しかし、現代、
心の問題に迫ろうとするなら、このような単純な心と物との二分法を超える
努力も必要であろう。人間をいかに解剖しても『心』は見出せない。
また、一木一草、自然の隅々にまで『心』は遍在しているとも考えられる。
心に対する多角的なアプローチのなかで発想の転換をはかり、心という
不可解な存在を少しでも明らかにしたいと願っている。結局それは『心』と
いう視座を通して『世界』をみることになり、新しく、より豊かなコスモロジー
を作り出すことになろう。」