小沢信男著作 208

 第四回桑原武夫学芸賞の選評つづきです。
 本日は、河合隼雄さんによるものです。
「『裸の大将一代記』は何と言っても面白い。ひきこまれてどんどん読み進んでゆくのだ
が、ときどきはたと立ち止まらされる。そして考えはじめると、これまたどこかで止まれ
ばいいのかわからぬほどになる。山下清という人間そのものが、現代社会の在り方い対し
て、いろいろな批判をもたらし、それに答えようとして、われわれはうろうろとしてしま
う。
 山下清のこのような有り様を、小沢信男の筆は真にうまく描写している。彼を取り巻く
人々の姿も実に生き生きとしている。
 われわれ臨床心理士の大先輩、戸川行男の仕事が的確に跡づけられていて嬉しい。
臨床の仕事というのは、相手に『ハマル』のだが『イカレ』ては駄目である。そのあたり
の難しさもよく描かれている。
 全国の教育関係者に、八幡学園の『踏むな 育てよ 水をそそげ』をおくりたい。
個性を踏みにじるのが『指導』だと思いこんでいる教育者も多いのではなかろうか。」
 臨床心理士の河合さんが、「裸の大将一代記」を評しますと、このようになるのです
ね。
 山下清さんの才能の開花については、それに関わった多くの人たちの力があったの
でしょうから、特に河合隼雄さんは、教育と山下清という人間そのものを切り口に、
この作品を読んでみることを勧めているように思います。
 山下清さんのような才能の人は、現代にも存在しているのでしょうが、そういう人が、
あまりクローズアップされないというのは、時代のせいでしょうか、それとも山下さん
よりも才能が劣るからでしょうか。