「鉄塔家族」佐伯一麦

 朝日文庫にはいった佐伯一麦さんの「鉄塔家族」を読み継いでいます。日経新聞
連載された小説で読みやすいこともあって、なんとか、最後までいけそうな感じで
あります。もともと小説は長ければ長いほどよろしいということをいっており
ましたが、最近は時間が足りないことや、老眼が進んでいることもありまして、
まったくもって、なさけない状態となっています。
 小生が佐伯一麦さんの作品にはじめて接したのはNHKドラマ「僕はあした18に
なる。」であったように思います。そういうことからは、まだまだつきあいが浅いの
ですが、最近は気分のあう私小説作家がいないもので、このドラマをみてから、これの
原作をブックオフなどで購入して読むにいたったのです。
このドラマは「ア・ルースボーイ」が原作ですが、高校時代の作者とおぼしき主人公を
伊藤淳史が演じ、わけありのガールフレンドを前田亜季がやっていました。
 本日に「鉄塔家族」を読んでいましたら、次のくだりがあってにんまりとしました。
「 どうして高校にはいかなかったの? 
  勉強はあんまし好きじゃないから。それに親父がいないから、早く金を稼いで
 おふくろを楽にさせたくて。 
  少年はぼそっといった。
  へえ、いまでもこんな少年がいるんだ、とおねえさんはいとおしくなったのだった。
  がんばれ、若造
  おねえさんは、地上の少年の心の中でそうよびかけて売店のなかへと戻った。」 

 伊藤淳史さんという役者さんは、こどものころから子役をしていたようですが、お父さんは
東北福祉大の野球部の監督(?)とかいうのをみたことがありました。いまほどネットで
しらべたのですが、そのことはみつからなくて、ちがうのかもしれませんが、独特の味わいの
あるかたです。
 伊藤さんはコマーシャルなどにも登場して「がんばれ、若造」というのは、伊藤さんが
出演したCMでつかわれたことばでありました。
 佐伯さんが、「がんばれわかぞー」ということを作中人物にいわせたとき、NHKドラマに
主演した伊藤さんのことを思い浮かべて、小説のなかでもつかったものと思い、このくだりの
ところでにんまりとしてしまったのであります。