「戦後名編集者列伝」

 「戦後名編集者列伝」櫻井秀勲 編書房刊 には「売れる本づくりを実践した
鬼才たち」という副題がついています。マイナーな出版物を偏愛する人たちは、
ベストセラーとか、うれる本づくりというだけで、評価しないようなところが
ありますが、もちろん売れるにはわけがあるわけでありまして、大いばりで売れ
ないことを威張っても出版業は成り立ちません。
 この本で取り上げられている編集者は、池島信平文芸春秋)、神吉晴夫(光文社)、
清水達夫(マガジンハウス)、斉藤十一(新潮社)なんてのがラインアップされて
いまして、この人たちは、戦後の出版界をリードしたところ大であります。
 「昭和30年代の出版社は、著者の原稿をありがたく頂戴してきて、そのまま一字
一句訂正せずに本にするのが当たり前だった。むずかしい表現でもそれに手をいれる
など、もっての外だった。そんな時代に本とは、著者と出版社の共同作業によって
つくられるべきだ、という考え方を実行したのだから、学者や作家から大きな非難が
あがった。しかし彼は一歩もひかず、大ベストセラーとなった安田徳太郎『人間の歴史』
全6巻などは、十回も書き直しを著者に要求したというエピソードを残したほどだ。
 まさに、編集者というより、出版プロデューサーにふさわしい行為、行動だった。
・・この神吉晴夫の大衆文化論は、現在みごとに根付いて、岩波調の講壇派は苦戦の
最中にある。人間は棺を覆うたのちに評価がさだまるといわれるが、彼の出版理念は
社会を大きく動かす役割を果たした。」 
 最近の光文社は、神吉晴夫カッパブックス時代とくらべると、すこしハイブラウな
ような気がします。この名編集者列伝では最後のほうのところに「全身二十四時間
編集者」というタイトルで、幻冬舎 見城徹がとりあげられていますが、見城率いる
幻冬舎が、神吉晴夫の光文社路線に近いような気がするのでした。