光文社といえば

 最近、光文社はハイブラウなイメージになっている記しましたが、新訳をそろえた
翻訳文庫とか、江戸川乱歩全集など、しゃれた装幀とあいまって、すっかり高級文庫と
いう感じになっています。
 そのむかしの神吉晴夫さんが君臨していた時代のカッパの本のイメージは、ほとんど
なくなっていることです。小生が高校のころでしたでしょうか、多胡輝さんの「頭の
体操」というのが、シリーズ化となって、ほとんど一家に一冊という趣でありました。
もちろん、カッパブックスでは新書サイズの本で小説などもでておりまして、ミステリ
などもでていました。
 この光文社の出版物で一番異色となっていたのは、なんといっても「大西巨人」さんの
作品であったでしょう。ほとんど作品を発表することがない大西巨人さんが生活が維持
できていたのは、神吉晴夫=光文社のおかげでしょう。商売的には、まったくさっぱりで
あったと思われますが、大西巨人さんの代表作「神聖喜劇」は、新日本文学で連載されて、
それがカッパブックスから新書サイズで刊行されたのです。なんといっても、いつに
なったら一冊分にまとまるのかと思えるくらいの遅筆でしたから、相当な忍耐が必要で
あったでしょう。
 全巻完結してから箱入りででたのも光文社ですし、文庫としてはちくま文庫が先でしたが、
いまも流通しているのは、光文社文庫です。
光文社が大西巨人の生活が成り立つように配慮していたことには、間違いがないと思われ
ますが、大西さんは、借り分を返すことができたのでしょうか。