「枕頭の書」2福永武彦

 福永武彦の「枕頭の書」などは、この時代にもっと読まれてもよろしいのにと
思います。元版は新潮社からでたものでありますから、新潮文庫にはいっても
不思議ではないのですが、新潮文庫は、このようなものを取り上げることがない
ようです。そうなると「講談社文芸文庫」となりますが、最近の文芸文庫も
かってのように、このようなものをシリーズ化することは、もうないようです。
 この「枕頭の書」が刊行されたのは71年のことですが、次に引用する文章が
発表されたのは、56年のことですから、実に50年もむかしの文章です。
「 趣味のいい、可愛い、それでいて筋の通った雑誌が、この頃はほとんどない。
それはあらゆる雑誌が商品ということを旨として、読者は必ずしても暇つぶしに
だけ、あるいは実用向けにだけ、雑誌を買うわけでないことを忘れているから
だろう。雑誌はなにも買った以上、読まなければならない代物ではない。
 その点、単行本と同じく、手にとって眺め、紙質や活字を調べ、目次や
本文をめくって、これは愉しそうだという予感を持ち、いずれゆっくりと
読むことにして、大事にしまっておく、そういう雑誌もあっていう。」

 最近では、趣味のよい、可愛い雑誌というのは本流からはずれていることも
ありまして、なかなか田舎の書店では姿をみかけません。それにしても、
この福永の文章が、最初にかかれたのは、56年7月のことでありまして、
すでに50年も昔のことになっているのでした。