本を読む人、集める人という分類をしますと、当方などは完全に集める人で
ありまして、ちょっと読んで深く刺さったりしますと、まずはその方の著作を
集めてみましょうとなります。
読む人はそうはなりませんね。当方が思う読む人の一人である坪内祐三さん
は、その著書「考える人」に収録の文章で、次のように書いています。
「いわゆる年末進行というあわただしいスケジュールの中、ここ三日間、長谷川
四郎の文章を読み続けています。・・・私が持っている長谷川四郎は、晶文社の
全集(全十六巻)の内の七冊、単行本六冊、文庫本五冊です。」
このくだりは、雑誌「考える人」に連載されたものですが、2002年から2006年
に書かれたものとのことです。それから10年近くもあとに、坪内さんは、また長谷
川四郎さんを話題にします。
「みんなみんな逝ってしまった、けれど文学は死なない」に収録の「『第三の
新人』としての長谷川四郎」という文章で、2014年の三田文学に寄せたものです。
「長谷川四郎は私の大好きな作家で、戦後の日本人作家の全集をあまり持っていな
しかしそれは、作家のというわけではなく、優れた文章家のとしてである。(同様
な理由で私は花田清輝や吉田健一の全集及び著作集をかなり所有している)。」
坪内さんは、長谷川四郎さんについて書いた十年ほどの間に四郎全集を何冊か
購入されたことがわかります。
それにしても、当方でありましたら、「大好きな」というのであれば、読む読ま
ないは別にして、まずは容易に入手できるものは集めてしまおうと思うのですが、
読む人 坪内さんはそういう発想にはならないのですね。
坪内さんの書棚の一部が紹介されている「本の雑誌の坪内祐三」を見ましても、
残念ながら長谷川四郎全集は写り込んでいないのでした。吉田健一も花田清輝も
写っていないのに、八木義徳集は全八巻が揃いで写っていて、これはこれで興味
深いことであります。
本日は今月の新刊ででた野呂邦暢さんの「ミステリ集成」中公文庫を話題とする
つもりでしたが、前置きのほうが長くなってしまいました。