鉄塔フェチ

本の雑誌」7月号をみておりましたら、しばらく新作を出していない作家に
アンコールという巻頭特集がありました。この特集のトップでとりあげられて
いるのは「銀林みのる」という作家でありました。名前を聞いたことがある
ようなないような、その代表作である「鉄塔 武蔵野線」という作品も聞いた
ことがあるようなないようなことです。結局のところ、この特集をみて、
まったくこのような人がいて、このような作品があったことは知らないという
結論にたっしたのですが、それにしても、鉄塔フェチといってもいいくらいに
鉄塔にいれあげていることです。
 この作品は、94年新潮社から刊行されて、その後新潮文庫にもはいった
ようですが、ずっと絶版となっているようです。
それが、10月にソフトバンク文庫(ここから文庫がでるのですね。この
鉄塔武蔵野線が、目玉となるのでしょうか。)から、ほぼ作者の思い通りの
かたちで復刊されるのだそうです。
 作者である「銀林さん」のこだわりは、次のようです、
「 ピアノって、ひとつでも鳴らない鍵盤があったら曲が弾けないじゃないですか。
鉄塔の写真は一号から八十一号まであるんですけど、全部そろっていないと、
鍵盤が鳴らないピアノと一緒で曲が弾けない、作品が成立しない。・・・
 とにかくこの小説を本とするにあたって、鉄塔がひとつでも書けるというのは
受け入れがたいことだったので、今回の復刊にあたっては、この作品の元原稿を
見せて、本当はこういう形で写真を500枚以上使いたい、ぜひやらせてくれ
ないかと、お願いをしたら、そのばでやりましょうと賛同してくださいました。
・・鉄塔ってずっと立っているわけじゃなく、改修するんですよ。だから、この
本にでてくるのは93年当時の姿で、いまは武蔵野線も送電線路が三つに
分かれて、名前も番号も変更されています。その対照表を巻末につけたんです。」

 送電線の鉄塔なんて、ぜんぶ同じであると思っていましたが、このように違って
いるとは知りませんでしたが、だからといって、そのこだわりに共感して、
この作品を読むことになるでしょうか。ソフトバンク文庫からでるのは、まだ
数ヶ月先ですが、どのような作品がはいるのでしょうね。
 
 今月の朝日文庫の新刊に佐伯一麦「鉄塔家族」というのが入りました。
もともとは日本経済新聞の連載ものですが、日経から単行本ででただけで、
あまりでまわらずでしたので、なんとか読んでみたいと思っておりました。
佐伯さんが「鉄塔家族」でいう鉄塔というのは、仙台の丘にたっている
テレビ中継用のものであるようで、この作品に鉄塔の写真はでてこなくて、
鉄塔が見える場所での人間のドラマが展開されるのでした。