「年魚集 文学的断章」3

 この「年魚集・文学的断章」には「文庫本ばなし」という章があります。
この文章はいつもの「ユリイカ」に掲載のものではなくて、雑誌「展望」に
のせたものが、はいってきたものです。ちなみに年魚というのは、鮎の
ことであるとのことです。これに収録の文章は75年にかかれたものですが、
「文庫ばなし」は、「週刊朝日」の特集記事「文庫本時代におくる ひとひねり
新「文庫百選」というものに寄稿したときに、ひねって選んだ文庫本が
品切れになっていて愕然としたという話です。
「 私は愕然として一つの事実に眼を開かされたのだった。すなわち、文庫本と
いうのは、いついっても手軽に手にはいるというものではなくなったという
事実である。・・・
 私は、どういうわけか自分でもよくわからない理由によって、新書版の
判型になじめず、文庫本が好きである。手に持った感じの微妙な違いが、
かなりこの好悪の判断に影響しているらしい。それと、もうひとつ、文庫本の
ほうが、文庫本のほうが古本やでの掘り出し物の喜びをずっと大きく
味わわせてくれるということがある。私は骨董趣味をもたないが、ほんの
すこしそれとるいしたものがあるとすれば、昼本屋で文庫本の棚をあさって
いるときの気持ちがそれだといえそうである。」