堀江敏幸さんが翻訳したエルヴェ・ギベール「赤い帽子の男」は、はじめに思った
よりもずっと面白く読むことができました。
- 作者: エルヴェギベール,Herve Guibert,堀江敏幸
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1993/11
- メディア: 単行本
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作者の仕掛けのうちであったようです。この翻訳の巻末には堀江さんによる翻訳ノー
トがついているのですが、それのタイトルは「『赤い帽子の男』をめぐる断章」と
なっています。この「断章」は、その後書き改められて、「子午線を求めて」に収録
されることになりました。
- 作者: 堀江敏幸
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/10/15
- メディア: 文庫
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ます。「子午線を求めて」(元版)には、初出一覧が掲載されていて、これをみまし
たら、この「下降する命の予感」は、「『赤い帽子の男』をめぐる断章」を中心とし
て、ほかに書かれた文章を加えたとありました。
いまほど「翻訳ノート」と「下降する命の予感」を見比べてみましたら、ノートの
分量の倍ほどに増えていることがわかりました。「仰向けの言葉」に収録の文章に
つながるくだりは、書き加えられたところにあるのですが、それはまたあとで話題に
しましょう。
「赤い帽子の男」の主人公には、ほぼ作者が投影されていますので、この主人公は
HIVに罹患しているというのは、いわずもがなのことになります。とはいってもHIVの
ことが必要以上に前面にしゃしゃりでてくることはありません。
HIVのことがもっと前にでてくれば、それへの怖い物みたさで話にはいっていきやす
かったかもしれません。
小説の序盤は、とくに後半への周到な伏線や美術業界の話などが語られていて、
ここのところは読み飛ばしたくなることです。作中人物の人間関係がうまく頭に
はいっていなくて、それが読みにくくしていたこともありです。
足踏みをしていた序盤で、当方がにやりとしたのは、次のところでありました。
「イギリスの小説家ブルース・チャトウィンは、ウィルスで死ぬ前の数か月と数週
間のあいだ、一枚ずとちがう絵を、毎日のようにロンドンの古物商のもとへ持ち込
んでいたという。支払いも済んでおらず、アパルトマンのどこに掛けたらいいのか
もわからずに、他のいろんな絵と一緒に床に積み上げてあったものだ。彼が死んだ
とき、妻は画商たちに、絵を返してくれるよう説得を試みた。」
ブルース・チャトウィンは1940年生まれですから、ギベールよりも15歳年長で、
ともにHIVで亡くなることになりました。HIVで亡くなった有名人というと、よく
名前のあがるお二人ですが、ギベールさんもチャトウィンさんのことを意識して
いたのでしょう。