仕事帰りにブックオフに

 いつもよりすこし早くに帰路につくことができましたので寄り道を
しました。仕事場と自宅の間にある「ブックオフ」は、小生にとっては
おとなの駄菓子屋のようなものであります。千円札を一枚握って、この
予算内で楽しいお買い物であります。
コイン一枚で買うことのできる古本をねたに「ワンコイン悦楽堂」という
著書をものにしたひともありましたが、ブックオフの楽しみは百円で
なにが買うことができるかです。前回に立ち寄ったときには、須賀敦子さんの
単行本の極美本が数冊、百円ででていまして、小生はすでにもっているにも
かかわらず手を伸ばしてしまったのです。
 「ワンコイン悦楽」という言葉をみたときに、その昔にシリーズでやって
いたサントリーのCM「10ドルの贅沢」というのを思い出します。あの
広告はいつころであったのでしょう。20年ほども昔になるのでしょうか。
その当時の「10ドル」で購入できる贅沢品をとりあげて、ウイスキー
肴とするものでした。どのようなものがあったのかほとんど忘れてしまった
のですが、いまでいうと特選素材とでもいうのでしょうか。
 本日は単行本を2冊と文庫3冊購入して千円でお釣りありました。
 一番高かったのは野見山暁治「四百字のデッサン」河出書房 550円で
ありました。この本は、先日に編集工房ノアから届いた「海鳴り」19号に
掲載の山田稔さんの「マビヨン通りの店」にとりあげられている文章が
のっているのです。この山田稔さんの文章をみると「椎名其二」という人に
興味がわいて、野見山さんの本を読みたくなるのですが、ひさしぶりでよった
ブックオフで、このように見つけることができたというのは、すこしは
運がむいてきたということかな。
「 森有正さんとは椎名さんのところでよく逢った。というより椎名さんを
切り離して私は森さんを語ることはできない。森さんも私同様、この老人の
家のスープがおいしくて、夕方になると落ち着かなかったのかもしれない。
森さんが小さい目を真っ赤にして人目もあらずベソをかいているのを、ある夜
訪ねた椎名さんのところで見たことがある。椎名さんは不機嫌な顔をしていた。
ご覧なさい、これでもちゃんとした大人なのか。日本はよくよくおかしな国だ。
人に相談しなきゃ自分の身の振り方ひとつできないなんて。」
 パリに長く暮らした哲学者 森有正さんについて、やはりパリにいた無名の
アナーキスト椎名其二さんの言葉を、野見山さんは残しているのでした。