「後方見聞録」2 

 学研M文庫というのは、かなり興味深いラインナップなのですが、加藤郁乎とか
種村季弘さんのものが登場したようなシリーズは、いまでも健在なのでしょうか。
小生のところにあるM文庫のほとんどは、いわゆるぞっき本でありまして、本の下の
ところに○にBの印がおしてあるのでした。たぶん、小生はブックオフと同じような
値段で新刊やのワゴンで購入したのではなかったでしょうか。
 学研M文庫には、安原顕の文庫本ベスト1000なんてのがあるのですが、この
シリーズで一番のものは、藤原マキ「私の絵日記」ではないでしょうか。まんが家
つげ義春の奥さんでありますが、夫婦ともに心の病にかかっているというような
家庭の日々のくらしの絵日記でして、とてもおすすめの一冊です。
 それはさておきで、加藤郁乎の「「後方見聞録」学研M文庫には、増補がついて
いるのですから、元版よりもぐっとお得になっています。
増補になっているなかには、詩人の飯島耕一さんとの交友についての文章があります。

「 交遊四十年に近い心友飯島耕一が古希を迎えたのが何よりめでたい。一歳年少で
あるが彼は現代詩人のなかで最も信頼にたる率直篤実の人である。昨今の詩壇の
ていたらくは今更言うには及ばず、・・・・
あの十年からにわたる定型論争を思い出してもみよ。飯島が損を承知の上で定型
押韻詩の復活を言い出し実行に踏み切らなかったら、何代にもわたり先人たちが
鍛えに鍛え続けた宝を危うく見失う、いや見捨ててしまうところだった。果して、
案の定、飯島は名誉ある村八分に輝く詩人として詩壇村以外の詩人や詩の愛好者に
熱烈な共感を得、支持された。」 

 小生が新しい詩集が発表されるたびにそれを求める詩人というのは、飯島さん
しかいないのでありました。「ゴヤのファーストネームは」が大変素晴らしいもので
ありましたので、またそうした体験をすることができないかと買い続けているので
すが、なかなかそれは簡単なことではないようです。
こうしたいきおいで購入した詩集のなかに「1954・5年詩集」(昭和51年
湯川書房刊)がありました。今回、この加藤郁乎さんの文章をみていて、この限定
刊行された詩集のことがとりあげられていて、それを古本で購入したことを思い
だしたのでした。
 飯島耕一さんの処女詩集ができあがったときに、一緒に仕上がった本を版元に
とりにいった人として金大中という人がでてきます。飯島さんの「港町」という
エッセイにも登場するのですが、このかたは東大をでてから朝鮮学校の先生をして
いて、それをやめてふるさとにもどり、家業をついで、いまではそこの会長を
努めていますが、経営論と同時に、詩もかたるというユニークなかたです。
金大中(カナモトという会社の会長)さんの「わたしの履歴書」みたいな文章には、
当然のように飯島耕一との交友のことがでていまして、飯島さんの理解のためには、
たいへん有益なのでした。