本の枕草紙2 井上ひさし

井上ひさしが作品を書くために大量の資料を収集するというのは良く知られた
ことですが、作品を書き上げたら、こうした資料はどうなるのかですが、ほとんど
置き場所も困るくらいになって、自宅に残っていたとききみました。
最後まで手元においてあった資料は、現在、出身地である山形の「遅筆堂文庫」に
おさまっているのでした。そこに無事に落ち着き場所をみいだすことができなければ、
あの資料は散逸していたのでしょうか。
 この本には、せっかく集めた資料の散逸をおそれるような記載があちこちにある
のでした。井上さんが収集していたのは、ほとんどが資料であるようですから、
けっして好事家が食指をのばすものではないようです。
「 書店で買い入れる。古書展で手に入れる、友人の本を返さずに自分のものにする
など、さまざまな経路で書物が個人の書棚に並びますが、どの一冊にも太いのやら
短いのやら、長いのやら細いのやら、見えない因縁の糸がくっついているように
思われます。あいつ本ばかりため込んで。いまに自分のいる場所がなくなって
しまうよ。すこし整理をすればいいのにと陰口をたたかれながら、必死に書物を
ため込んでいる人たちがいますが、その人たちはきっと、書物と自分とを結ぶ
見えない因縁の糸を、自分では断ち切りたくないのでしょう。」

 物故作家がなくなると、自分自身のために大切に保存しておいた自分の全著書が
紐で縛られて古書市にならぶとも書いて、そのようなものに出会うととこころ穏やか
にはいられないとあるのでした。
 作家が自分用にとっていたものでも、始末にこまって流出することがあるので
すから、小生の収集したものなどは、あっさりと整理をしたのほうが人のために
なるのかもしれません。