偏愛ということばが上にのっかった「本についての本」のことを思い浮かべて
おりましたら、本日のブックオフで発見しました。渋澤龍彦のものとか、池内紀の
ものは所蔵しているのですが、倉橋由美子さんにこのようなものがあったことは
知りませんでした。倉橋さんの作品は「パルタイ」を学生のころに手にして、あとは
残酷童話を読んだくらいでしょうか。(「パルタイ」をよんでも、京都のジャズ喫茶に
いくことはありませんでした。)
この「偏愛文学館」を手にして、倉橋さんはまだ健在であったろうかと思い返した
のですが、いまから2年前に亡くなっていることを知りました。この本は、死後まも
なくに刊行となったものですので、ご本人が生きているうちに企画されたもので
しょう。
偏愛ということですから、とにかく好きな作家と作品のみを取り上げているようです。、
なかで一番力がはいっているのは、吉田健一さんのところでありまして、これを見ますと
倉橋由美子さんは、吉田さんの大ファンであったということがわかります。
マガジンハウスからでていた「楽」という雑誌に連載されたものと、文芸誌「群像」に
連載のものをまとめたものですが、全部で39冊とりあげのなかで、吉田健一さんのみが
イーヴリン・ウオーの翻訳者として2回(ピンフォールドの試練、ブライドヘッド再び)
「怪奇な話」と「金沢」という小説で2回とあわせて4回も登場するのでした。
この本の最後のところには、「金沢」がおかれて、その書き出しとなるところには、
「明治以降の日本の文人で、この人のものさえ読めばあとはなかったことにしても
よいと思える人の筆頭は吉田健一です。もともとは小説書きの看板を掲げた人では
ありませんから、小説の数はそう多くはありません。最初に発表しようとした逃げる話は
編集長のお気に召さずボツにされたとのことで、よほど変な小説だとみられたのでしょう。
しかし私はこれをほかの誰にも書けない逸品として偏愛しています。その他の短編も
長編もみな同様です。」とあります。
偏愛ということばがここに登場しますが、偏食というとけっしてほめられるものでは
ないと思います。どうように作品への偏愛というのは、その対象となるものが、決して
一般むきのものではないときに、なおのこと偏った嗜好というイメージが強くなるので
ありました。そういう意味では、渋澤さんや池内さんの偏愛よりも、倉橋さんの偏愛は
印象が強いことです。