夕方に外出から戻って、夕食前に乙川優三郎さんの「二十五年後の読書」
を手にすることになりです。ぱらぱらと何十ページか読み進むことになりました
が、このように読めてしまうものばかり読んでいていいのかと、ちょっと思うこと
で。
そういえば、先日に訪れたブックオフで、ほぼ半額ほどの値段で買った文庫
本が、もう一冊ありました。それは吉田健一さんの「汽車旅の酒」です。
これは中公文庫オリジナルのものでありまして、巻末にある編集付記を見ま
したら、「著者の鉄道旅行とそれにまつわる酒・食のエッセイを独自に編集し、
短編小説二篇『東北本線』『道端』、観世栄夫『金沢でのこと』を併せて収録し
たものである。」とありました。
これは吉田健一さんのものとしては、読みやすそうなものを集めているのだな
と思いながら、まずは観世栄夫さんの「金沢でのこと」を読んでみることにしまし
た。この文章は集英社版『吉田健一著作集」第20巻の月報に掲載となったも
のだそうです。観世さんの文章の書き出しは、このようなものです。
「今年も桜が咲き始めたが、金沢に行かず仕舞いだった。吉田先生のお元気な
頃は、毎年二月の金沢行きが楽しみで、前の年の暮頃から、そわそわしたもの
だった。」
吉田健一さんといえば、やっぱり「金沢」なんだな。これを機にこれまで何度も
手にしながら読み通せていない「金沢」を読まなくてはいけないと強く思いまし
た。
そんなわけで文芸文庫版「金沢」を取り出してきたのですが、これがまあ乙川
さんの小説とは対極にあるように読みにくいものでありまして、ほんとうに不思議
な文体で、すこし目にするだけで、これは吉田健一さんの手になる作品とわかる
のですが、これほど読者に媚びない小説というのも珍しいこと。さて、この小説の
どこまでいけるかなです。