本のなかの本

 「本のなかの本」は批評家である向井敏さんの著書です。向井さんは電通
会社員を経て文筆家となったのですが、サラリーマンを経験しただけにバランスが
よろしいように思います。これは彼のお仲間である「谷沢永一」とくらべての
ことでありまして、とんでもなく厳しい谷沢さんとくらべると、ほかの人は
たいていはバランスがよろしくみえますかな。
 向井さんは、文庫になった著書が何冊かありますが、さきほど本をしまって
あるところをのぞいてみましたら、すぐに2冊がでてきました。
「本のなかの本」(中公文庫)と「傑作の条件」(文春文庫)です。
特におすすめは、本日のタイトルとした「本のなかの本」です。
この本の帯には、「峻別された戦後の名著150冊」とありますが、それに
してもずいぶんとよろしい本を選んでいることです。このようにあらためて、
この方がリストアップしたものをみましたら、小生がとりあげた本と作者が数多く
あがっていることです。
 ここでは、日高普「精神の風通しのために」についてのくだりから。
「 人は昨日については賢明になれるが今日については迷うという。敗戦後まもない
混迷の時期にはまして。そうしたなかで、日高普は時流に棹さして流されず、ものごとを
醒めた眼でみることができたまれな論客の一人。当時の論断はこの人をこそ起用すべきで
あったのに、賢者のつねとして世に容れられず、その発言はほとんど知られることが
なかった。」
 この向井さんは、谷沢永一さんときわめて近しいのでありますが、谷沢さんより
ずっと常識人でありますので、安心して読書初心者にお勧めすることができるので
ありました。