本についての本

 「本についての本」で小生がすすめるものに白上謙一さんの「本の話」教養文庫
あります。最近でも古本ではネット書店で入手が可能のようですから、是非とも手にして
見てもらいたいものです。
 小生が、その「読書エッセイ」を信頼するに足りるかどうかを見分けるための
いわばリトマス試験紙かわりにつかっていたのは、「虚無への供物」でありました。
この作品の前半部は、「江戸川乱歩賞」にノミネートされたのですが、推理小説
してはだめということで、受賞を逸したというのは有名な話であります。現在の
評価は、ほかの乱歩賞作品とは比較になりませんが。( 「本の雑誌」4月号を
みましたら、中井英夫さんの最後をみとった本多正一さんのことばとして、この
作品をはじめて発表したときの「塔晶夫」というのは、作中人物の頭文字を
たどると、ひい、ふう、みいとつながって、そのしめを作者名のとうで完結させる
というしかけであるとありました。それで、あんなに不思議な名前の人たちが
十人もいたのであるか。)
 早いころに「虚無への供物」をとりあげて、当時勤務していた学生向けの山梨大学
新聞に書いていたのが、白上さんでありました。本来は発生生物学者でありますが、
相当な小説の読み巧者でありまして、特には小栗虫太郎夢野久作久生十蘭なんかと
あわせて中井英夫をすいせんしているのでした。
 中井英夫以外は、すべて社会思想社からでていた「現代教養文庫」にシリーズ化
されていた作家たちで、あのシリーズというのは、いまとなっては、白上さんのおすすめ
領域にぴったりといえる貴重なものでありました。
 この白上さんのエッセイは、あちこちに引用をしたいところがあるのですが、
本日にご紹介するのは、次のくだり。
「私が最も感銘をうけた、文句なしに日本製の本を二つあげておく。白井喬二氏の
富士に立つ影と中里介山大菩薩峠の二書である。中学から高校にかけてこの本を
読んだことが、私が今日甲斐のはざまに沈殿していることに、おおいに関係している
かも知れない。」 
 「富士に立つ影」はちくま文庫で入手可能でしょう。小生は、どちらも富士見時代
小説文庫で持っているのでした。(大菩薩峠はよめていませんが。)