仕事帰りにブックオフへ

 仕事に煮詰まったらブックオフへといくに限ります。
普通の本屋でありますと懐具合が心配になるのでありますが、
ブックオフでありますと、本の置き場所の心配をしていれば
いいのですから、読まなければいけないという脅迫観念に
とらわれることもなしで、純粋に本を買うことができるので
ありました。
 いつものことながら、百円棚のまえでしばし足をとめており
ました。文庫も単行本もかわらずで百円というのはいかがな
ものかと思いますが、文庫のほうが単行本よりも高いというのは
不思議な価値観であります。
 本日に購入したのは、次のものです。

 内田百けんノラや」(改版)  中公文庫
 
 この作品は、猫好きは涙なくしてはよめないものです。
あの偏屈を絵に描いたような老作家が、飼い猫のためおろおろと
するのが、ほほえましいというか、かわいそうというかです。
この作品は、旺文社文庫、福武文庫、中公文庫とでておりました
が、福武文庫をのぞいては、文字が小さいのが難点であります。
とくに、当方が老眼になってからは、昔の文庫本は苦手なものの
一つになっています。
 たいてい版があらたまると新字新かなになってしまうのですが、
さすがに内田ひゃっけんにあっては、そのように野蛮なことには
ならないのでした。(新字旧かなです。)
 猫の帰るまじなひということで、たちわかれいなばのやまの・・
という短歌がのっていましたが、この短歌を、このようなまじなひに
つかうということを、この本で初めて知ったのでした。
3月29日は「ノラ」がいなくなった日となっていますが、この日を
記念日としている人はいるのでしょうか。

 河野与一「学問の曲がり角」岩波文庫

 河野与一さんは哲学者ですが、それよりも語学の天才として知られて
いました。いったいどのくらいの言葉ができたのでしょうか。
岩波文庫には、河野さんが翻訳した文学作品がおさめられていますが、
ポーランド語とか、ノールウェイ語なんてものもやっているのです。
最近は、小さな言語を専門としているひともでていますので、
いつまでも河野さんの訳ではないだろうと思いますが、「クオバディス」の
新訳なんて、光文社文庫でも考えることはできないでしょうね。
 その昔の箱入りの元版は、けっこう珍しいものでありましたが、
河野さんが亡くなってから、箱入りの正、続が復刊されました。
そして、7年ほど前に正、続から再編集して文庫が生まれました。
岩波文庫の赤帯は、日本文学の敵といわれましたが、そのような
敵からのまわしものというのが、河野さんの役割でした。
 最近は、河野さんの翻訳は読まれているのでしょうか。