高杉一郎とピアス

 先日のブログで吉田秀和さんにふれたときに93歳という
年齢を記したことがありますが、本日の朝日夕刊「トムは
真夜中の庭で」の作者フィリッパピアスの追悼文のなかに、
この作品の翻訳者である高杉一郎さんのことばをひいて、
高杉さんが98歳になるとありました。98歳にして
ぼけることもなしで健在というのに驚きました。

 高杉さんは、大学を卒業してから改造社の編集者となって、
そのあと軍隊に召集され、シベリア抑留となり、そのときの
体験を「極光のかげに」という小説にまとめ、一躍ベストセラー
作家となったのでありました。
 小説家「上林暁」さんの作品に「入社試験」というのが
ありますが、この作品は、上林さんが改造社勤務していたときに、
入社試験の面接を担当して「高杉一郎」さんを採用したという
話題がでてきます。現在98歳の人が採用されたときの話で
ありますからして、ほとんど歴史のひとこまのような話題で
あります。
 復員してから、しばらくは無職であったのでしょうが、
静岡大学に職を得て、ずっと静岡に住んでいたようです。
 高杉さんは英文学の教授でありましたが、その分野では
スメドレーの「中国の歌声」やロバート・グレーブスの
ギリシャ神話」などの翻訳があります。 
 このほかの仕事として有名なものは、エスペラント作家
エロシェンコの翻訳であり、児童文学の紹介という仕事もして
います。小生が、高杉一郎さんを知るにいたったのは
昔々の朝日新聞日曜版にあった「児童文学」についてのコラムの
著者としてでありました。いまから40年近くもむかしのことで
しょう。たぶん、いまでも切り抜きはあると思いますが、
あのコラムと、それを引き継いだ白柳美彦さんのものは、
当時はとても新鮮でありまして、それに触発されて児童文学を
読むにいたったのです。
 そうしたなかで読んだのが、ピアス「トムは真夜中の庭で」と
言う作品です。本日の朝日夕刊の追悼文を見ましたら、ピアスの
この作品は、英国でよりも日本でより多くの読者をつかんでいて
これは翻訳がよろしいからとコメントがついていましたが、
翻訳者冥利につきることであります。