ひとつの自伝 2

 清水真砂子さんの「青春の終わった日 ひとつの自伝 」に登場する恩師で実名が
記されている方のことです。
 この先生は、清水さんが入学した静岡大学の教授でありました。一番最初に記される
ときは、他の先生と同じくイニシャルでの表記となっていました。
「O先生は、たえず知的な刺激を私たちに与えて、広い世界を私たちにのぞかせてくれる
先生だった。それが先生の意図されたものであったかどうか、それは知らない。
が、私は先生の授業に出るたびに、自分はなんて勉強していないんだろうと思い、なんて
世界を知らないんだろうと思った。先生は喜劇、悲劇の何たるかを語り、アリストテレス
の『詩学』を紹介、そのカタルシス論を語り、ギリシャ神話の世界を語った。・・
 O先生は、またクロポトキンを語り、トーマス・マンを語り、ツヴァイクを語った。
ザメンホフエスペラント語を語り、アグネス・スメドレーを熱く語られた。」
 この授業は、清水さんが二年生の時に受けた「文学概論」であります。このような
話題を展開するO先生とは、「すなわち小川五郎(筆名 高杉一郎)先生」と名前が明ら
かにされます。クロポトキンツヴァイク、スメドレーというのは、すべて筆名 
高杉一郎さんが翻訳を手がけている方々です。
「そして、そのすみのほうに、『児童文学』も位置づけられていた。」であります。
 この時代(1961年頃)、「文学概論」に「児童文学」を位置づけるというのは、極め
て珍しいことであったと思われます。