私家版「俺様の宝石さ」

 先日にみたバイク映画「インディアン」の時代は、日本のモーター
スポーツにとっては創世記ともいえる時代でありました。日本製の
スポーツカーが、ドイツ車とバトルをしたというのが大きな話題で
あったのです。そのころのヒーローというのは、絵描きさんの息子で
ある生沢徹であり、65年に鈴鹿サーキットで練習走行中に、コースに
でていた人をさけるために事故死した浮谷東次郎でした。
有名なレーサーで事故死を耳にしたのは、この人がはじめてであり
ましたので、当時の中学生にも強く印象に残りました。
 彼の名前を冠したホンダのレースカーもあって、高校の修学旅行で
鈴鹿を訪れたときには、そのレースカーをしみじみとみたのでありま
した。
 そのときは、この浮谷さんが私記を残していて、それが文庫本に
まではいるようになるとは、思ってもいませんでした。
 亡くなった4年後に家族の手によって「俺様の宝石さ」が刊行に
なったのですが、70年代にはいって松田道雄さんが、アンソロジー
編集した時に、浮谷さんの文章をとりあげたことによって、レーサーと
してよりも自分らしく生きる道をさがす多感な少年として人気を
集めることになりました。
「がむしゃら1500キロ」という本はちくま文庫にも入って、いまでも
入手は可能となっているでしょう。
 この浮谷さんは、千葉市川の裕福な家庭に育って、小学校で車の運転を
覚えて、ライカのカメラを操作し、中学で東京から大阪にバイクで旅行を
敢行し、18歳から21歳までUSAにわたって大学に在籍するという
甘ったれたぼんぼんとは、全く違った生き方をしていました。
時代は、60年代の前半ですから、とんでもなく時代の先をいっていた
ことです。
 私家版を入手したのは、いまから20年前の銀座松屋の古本市でした。
この本は、東次郎が元気をもらっていた小説「図々しい奴」の作者に
送られたもので、刊行者である東次郎母からの献呈のコメントが
ついております。古本市で見つけた収穫としては、これにまさるものは
ないかもしれません。当時でもめったに見かけない物であったでしょうが、
その時の価格は2500円となっていました。
 いまほど日本の古本やでみましたら、一冊でていましたが8千円という
値段がついていました。
 
 数年前にやはり鈴鹿で事故死した「加藤大治郎」は、本の世界でも
後世に名前を残すことがあるでしょうか。

 日本の古本屋検索結果 

 私家版「俺様の宝石さ」 浮谷東次郎 、浮谷かずえ 、1 、昭44  
 B5 374頁+図版20頁 函付 私家版 非売・・・    8,000円