出版社の狂い咲き

 詩の本を中心に出版を続けて数十年となる思潮社のような版元が
ある一方で、何をおもったか、それまでまったく畑違いの出版を
行っていたのに、ある日突然文芸出版に目覚めたかのように、格調
高い出版に手をそめるということがあります。
たいての場合は、志たかくそろばん勘定がへたな編集者の提案をいれて
道を踏み誤るのですが、そういう会社は、文芸出版に使命感がある
わけではないので、商売にならないとなると、きれいさっぱりと
その分野から足抜けしてしまうのでした。
 これまた昔のことですが、山川方夫さんの長編小説「日々の死」と
いう作品は、平凡出版(これは月刊平凡をだしていたところで、
いまのマガジンハウス)からでたものでした。これを担当したのは、
その後作家となった後藤明生のはずですが、このあと単行本の小説を
継続してだすことにはなりませんでした。(最近のマガジンハウスは、
文芸書に取り組んでいるのですが、これは会社のお荷物になるのでは
ないかといわれていますが。) 
 これまでの組み合わせで一番ミスマッチであったのは、日本文芸社
はないでしょうか。会社名からはどのような文芸書がでていても不思議では
ないのですが、ここは「漫画ごらく」というコミック誌の版元でありました。
ここが編集者をやとって、意欲的に文芸に進出したときには驚いたもの
です。89年4月から何年続いたのかわかりませんが、金井美恵子
「全短編」や「本を書く人読まぬ人」など、印象にのこるものがあり
ます。この会社の文芸編集部は小山晃一さんという編集者がやって
いたのですが、どのくらいやっていたのでしょうか。
 最近でいきますと「ポプラ社」なども、そのむかしの印象とはかわって
おりまして、こういうのはいつまでも続いてほしいと思うのでした。