本を作る人

 「読む人・書く人・作る人」というのは、岩波の雑誌「図書」の
冒頭を飾るコラムのタイトルです。このタイトルのうまいのは、
本に関心のある人は、必ずやこのどれかに分類されることです。
そのむかしは、書いたとしても人の目にふれるようにするには
ずいぶんと手間がいったのですが、ネット時代にはあっという間に
他の人に見てもらうことが可能になります。
見せるのが容易になっただけ、関わりが希薄になっているようにも
思いますが、悪いことばっかりではありません。
 とはいうものの、思いのたっぷりこもった出版物というのは
よろしくて、送り手からのメッセージをしっかりと受け止めようと
いう気がいたします。
 近年に入手したものでは、みすず書房からでた宇佐見英治さんの
「明るさの神秘」の元版にあたるものが、そうしたものです。
これはもともと岩手の小平林檎園というところが、宇佐見さんの
了解を得て、千部刊行したものが、品切れになり、みすずが版を
引き継いだことになりますが、林檎、宮沢賢治、宇佐見英治と
小平さん夫婦の協同作業のような出版物です。小生は、みすずから
でているものでがまんをしておりますが、元版にあたる小平版は
古本ではみすずの数倍の価格がついているようです。
 作家 川崎彰彦さんの函館時代のことを書いた連作集の
「私の函館地図」にも、関西の同人誌仲間である高村三郎さんが
自らガリ版を切って、謄写版印刷をした高村版「私の函館地図」と
いう出版物がありまして、これは川崎さんの作品で一番思いが
こもっていると思っております。出版されたのは75年11月
限定200部 800円とあります。全部販売してもたったの
16000円にしかならないものでありまして、こういうことが
昔にはあったのでした。その後に、この作品集はたいまつ社から
単行本となりまして、入手が容易になりました。一昨年12月に
でた「私の早稲田時代」もよろしいが、小生にとっては、やはり
こちらに惹かれるのでした。