本をつくる人6

 まだ「明るさの神秘」であります。昨日に記しましたように、この「明るさの神秘」
の印刷は、小平林檎園版、みすず書房版の、両方が「精興社」であります。
仮に売れ行きが好調でも小平林檎園では増刷をすることができなかったでありましょう
から、小平版からみすず版への引き継ぎは、当初からの予定であったのでしょう。
みすず版に寄せた宇佐美英治さんの「覆刻追記」には、このようにあります。
「 一昔前なら版元が変れば覆刻ということになるが、今は写植であるから、実際は
第二刷がみすず版第一刷となる。これによって小平夫妻は本業に再び専念し、読者も
本屋で、或いは小売店を通し、容易に買い需めることができるようになろう。」
 宇佐見さんは心配しつつも、自分の著書であれば、初版が千部なんてことはないぞ
と思っていたのかもしれません。

 この「覆刻追記」という文章の、終りは次のような文章となっています。
「なお、覆刻再刷に当り、『自筆略年譜』中の私の記憶違いによる明瞭な誤記を訂正
した。」
 両方の版をぱらぱらと見比べてみて、「明瞭な誤記」というのが、すぐにはわかりま
せん。誤記ではなくて、言葉の追加であれば、それは一行目にもあるのですが、これ
は、じっくりと見比べをしなくてはでてきませんです。