先生とわたし (由良君美について)

 本日の朝刊はずらっと文芸誌の広告がならんでいました。
右から「新潮」「すばる」「群像」「文学界」ですが、その昔は、
ここに「海」がありました。「文芸」はならんでいたことがなかった
ろうか。中央公論社が「海」を廃刊してからも、この広告枠は
手放さなかったので、文芸特集がかわりにのっていたりして、
すこしいさぎよくなかったように思いました。それにくらべると
今月のラインナップは、全盛時の文芸誌時代を思い出させます。
 一番目を引いたのは、「先生とわたし」四方田犬彦です。
このタイトルは、夏目漱石の作品の「こころ」のようですが、
この先生とは「由良君美」のことのようです。四方田は宗教学科
から比較文学の大学院のはずですから、由良さんは、大学院での
先生ということになりますか。
 由良君美のことは、第二次「ユリイカ」で知りました。
「椿説泰西浪漫文学談義」という連載をしていたころで、ほとんど
はじめて名前を聞く作家の名前に興味を覚えたのでした。
あの時代の青土社のシリーズは、やはり時代を感じさせるもので
ありまして、小生の書架には、これのほかにも大岡信の「文学的
断章」などもあるのでした。
 由良君美さんは、このあとのみみづくシリーズなどでも絶好調で
ありまして、けっこう買いそろえたのです。
この由良さんで一番すきなのは、英文科にいると哲学が学びたく
なり、哲学科に転科すると英文学に心を奪われるというやつです。
 このようにした結果が、G・スタイナーの翻訳などに取り組み
素地となったと思います。
 最近では、ほとんど聞くことがなくなった「脱領域の知」の
実践者として由良さんをとらえるというのは、あながち誤りでは
ないのかもしれません。高山宏四方田犬彦というのが由良スクールの
優等生であるのでしょうが、どちらも専門が何かわからないという
師匠のスタイルをよく継いでいます。