昨日の今日で「風貌」

 昨日の夜に放送のあった「なんでも鑑定団」には、太宰治のハガキがでてくる

ということで宣伝されていました。この番組は毎週録画して見物をしているので

ありますが、文学ネタというのは興味がわくことであります。

 太宰治のハガキ四枚ですが、太宰のファンという若い男性(当時)に宛てられた

もので、受け取った男性は亡くなって、その方の娘さんからするとお舅さんにあたる

方が鑑定依頼をして来たとのことです。

 この男性は、どうして太宰のハガキが、こちらにあるのかは良く知らないという

設定になっていました。(たぶん、そうなのでしょうね。)

 結局、このハガキは依頼人の予測を大きく上回った評価となったのですが、太宰

は人気があるから、一括であればこのくらいで売りたいということなのでしょう。

ハガキの一枚には、太宰がこの若い男性に小山清くんを紹介するので、彼を尋ねる

ようにという文面がありました。

 へえー小山清かなと思って見ていましたら、鑑定にあたった八木さんが、小山清

の「風貌」という作品に、このハガキの受取人男性が登場しますとのコメントをして

いました。

 小山清の「風貌」か、これは手元の文庫本にはいっているだろうかと思ってあた

ってみましたら、収録されていました。

旺文社文庫 小山清「落ち穂拾い・雪の宿」 昭和50年 

 50年前の文庫本でありますね。よく出来たもので当時新刊で買ったのですが、

どれだけ読んでいるのかです。このようなタイミングで取り出してくることになると

は、わからないものです。(このあとにちくま文庫でも小山清はでているのですが、

こちらにも入っていますね。)

 太宰には、そんなに興味のない当方も、このように太宰から小山清につながる

話題は好みでありまして、小山の「風貌」でこのハガキ受取人が登場するくだりを

見てみることにです。

 このくだりが書かれたところが、とってもいいのでありますね。この小山の「風貌」

に描かれていることで、このハガキは価値を増すことでありますね。

「その頃(昭和16年)S君という少年が太宰さん許に手紙をよこした。太宰さんは

その手紙を私に見せて、素直な人のようなだが、君逢って見ないかと言った。

手紙の様子では、十九か二十の年頃である。私が年が違い過ぎるなと言ったら、

太宰さんはちょっと疎ましい顔つきをした。太宰さんはS君に宛てて私を紹介する

葉書を書いて私に見せた。『小山君は立派な人ですから』という文句が見えた。

そのS君が竜泉寺町の私の店に訪ねてきた。S君は年は十九で、太宰治の作品を

読むことを、その孤独な生活の唯一の慰めにしているような少年であった。・・

S君とは時々逢っていたが、戦争末期に応召して、その後の消息は絶えた。」

 ということで、昨日のTVにはこの時の太宰のハガキがでたというのですから、

これは太宰ファンにはたまらないことで。

 しかし、この男性は若いころ太宰ファンで、小山清さんとも交流があったのです

から、そのことを家族に話をしていないとは思い難いのですが、若い頃に太宰の

作品を読むことで慰められていたということを葬りたかったのでしょうかね。