本日の持参本は

 本日は年に一度の健康診断でありました。採血してから、エコー、心電図と     

あって、最後の胃のバリウム検査まで二時間半くらいかかるものです。

病院で診察を受けるのであれば、じっと待つ間は本を読んでいることができ

るのですが、検診は頻繁に呼ばれて、その都度本を読むのは中断することに

なります。

 こういう待ち時間に読むに適した文庫本は何がいいだろうかと、最近手に

している三冊の文庫本のなかから選ぶことにです。

 その三冊とは佐藤正午さんの「読むインタビュー」、ホレス・マッコイのもの

と、堀江敏幸さんの「もののはずみ」であります。

このようにならべてみると、短くて読みやすいものについての堀江さんの

エッセー集がいちばん向いていると思われました。

 ということで、安価で購入した(この本は、お気に入りですので、安価で

見つけるとついついダブリを承知で購入してしまいます。)角川文庫版の

「もののはずみ」に革製のブックカバーをかけてもっていくことにです。

(リンクを貼ろうと思ってみましたら、最近は小学館文庫からでているのです

ね。)

 堀江さんがフランスで暮らしていたときに出会った「もの」についての短編

小説のような味わいのある文章が、収められています。「もの」といっても

フランスで人気のブランドものは一つもなく、あっても故障しているかして、ほぼ

ラクタと呼ばれるものです。こんなもの買ってどうするのと言われるものに

手が伸びるというのが、堀江さんであるようです。

 フランスの蚤の市で、まるでホームレスのおじさんのような雰囲気の店主の

販売しているものについて、このように書かれています。

「ところがそのおじさんのスタンドには、『物心』が満ちあふれていいた。けっして

きれいではないけれど、隣合って置かれている『もの』たちのバランスが絶妙な

のだ。思わず引き込まれて見入っていると、黄ばんで紙の剥がれかけた二十世紀

初頭の地球儀の横から、それにぴったりの薄汚いダックスフントが首をかしげて

こちらを見ていた。するとおじさんは、ちらりと私に目をやって、犬か、地球儀か、と

訊いてきた。

 犬です、と応えると、彼はなにも言わずにたちあがり、奥の箱からべつの犬を

出してきて、そっと横にならべた。

 空気が一変した。彼らはまるで、幼稚園の頃からの友だちみたいにたたずんで

いた。」

 堀江さんの短編小説の趣で、当方はこのような堀江さんが好きでありますよ。