せめて序章だけでも

 昨年の夏頃にぐんま様から岡村俊明さんの「中野好夫論」がおすすめとの

書き込みをいただいたのですが、この本には縁がないだろうなと思っておりまし

た。

 それがどういうわけか、今年になってから図書館の新着資料の棚を見ており

ましたら、この本を発見したのです。存在を知ってからずいぶんと時間がかかり

ましたが、これはなかをのぞいてみなくてはと、やっとこさで借りることになりです。

 図書館で立ち見をした序章の「はじめに」のところに、次のようにあるではない

ですか。

「中野が逝ったとき、弟子であった文芸評論家の篠田一士は、中野を『全き人』

と呼び、『全き人は一気に動く』という記事で、次のように書いた。」

 こんなところに篠田さんの名前がでてくるとは思ってもみなかったことです。

篠田さんが中野好夫の弟子という存在であるのかどうかは、当方には微妙な

感じがしますが、それはともかくとして、この岡村さんの「中野好夫論」の副題は

「『全き人』の全仕事をめぐって」でありますから、岡村さんが篠田さんの文章に

触発されていることは間違いのないところです。

 篠田さんの「全き人」の文章の引用に続いて、岡村さんは、次のように書いて

います。

「これが篠田の中野論の中心をなすものである。本書ではこの言葉を借用して、

翻訳、伝記、英米文学研究、文学・文化評論・社会活動にわたって活動する中野

を、『全き人』と呼びたい。

 しかし私は、『全き人は一気に動く』という篠田の説は優れているとは思うが、

中野のすべての著作活動と実践活動を説明できるとは思わない。」

 そうであるのか、篠田さんが提示したものを補足、補強しようというのが、

岡村さんの試みでありますか。(篠田さんは、社会活動のところは不得手である

ように思いますからね。)

 まずは篠田さん元の文章を読んでみるところから始めようと、篠田さんの本を

まとめてある棚でチェックをしましたら、没後にまとめられた「篠田一士評論集」

(小沢書店1993年)に収録されていました。

 よしよし、まずは篠田さんの文章に目を通してから、岡村さんの序章を読んで

みるぞ、序章だけなら読むのは大変ではないでしょう。