月の初めに 3

 「タタール人の砂漠」 ブッツァーティで検索するとでてくるのは、次のものです。

タタール人の砂漠 (イタリア叢書)

タタール人の砂漠 (イタリア叢書)

 いま入手しやすいのは、これかもしれませんが、当方が読んだのは(それから
読み返す機会もないのでありますが。)、これではなく、最初にこの作品が刊行された
版であります。最初に手にして読んだものというのは愛着があるもので、いまも
タタール人の砂漠」ときくと、集英社版世界文学全集のことを思いだします。
 この全集は、けっこう画期的なものであったと思います。セールス的にはあまりよく
なかったはずで、当方が学生時代にはあちこちの古本屋さんで、格安で販売されていま
した。
 当時の世界文学全集というと定番は筑摩とか河出のもので、どちらかというと古典から
19世紀くらいまでの小説を中心に編集されていましたが、このはほとんど20世紀文学全
集というものでした。
 編集委員に名前をつらねているのは、伊藤整鈴木信太郎手塚富雄中野好夫
原久一郎という面々であります。もちろんこの方々は魔除けというか借りてきた看板の
ようなもので、実際は篠田一士さんのグループが担当したものです。(このあとに
でた集英社版世界の文学は、名実ともに篠田グループの編集になったはずです。)
 本当に思いきった編集でありまして、これでしかよむことができない作品がたくさん
収録されていました。
 ギュンター・グラスの「ブリキの太鼓」もこれが最初の翻訳であったはずです。
ボルヘスの作品もまとまって紹介されていました。
 「タタール人の砂漠」は、「イタリア小説集」という一巻に収録されていました。
 この巻に収録の作品は、ほかにはパヴェーゼ「丘の上の館」とモラヴィアのものが
はいってました。これが刊行された時代において一番有名であったのは、もちろん
モラヴィアでありまして、モラヴィアは作品が映画化されたりしていましたからね。
 どうしてこの巻を購入するにいたったのか、まるでわかっておりませんが、この巻で
読んだのは、「タタール人の砂漠」のみであることからも、この作品が目的であった
のは間違いありません。