先日に届いた岩波「図書」8月号をのぞいていたら、斎藤真理子さんの文章の
タイトルが「編み物に向く読書」となっていました。
斎藤さんは「編み物が好きで、編むときは必ず、同時に本を読んでいる」のだ
そうです。当方は編み物はほとんどしたことはないのですが、その昔にガーター
編みで、モチーフを作りをやったことがありまして、下手くそでありますので、
ほとんど指先に集中しなくては編むことができなかったことを思いだしました。
ということは、斎藤さんは相当に編み物が上手なのですね。編み物をするとき
に読む本を、斎藤さんは「編み本」と呼ぶのだそうですが、それは厳
選された
三十冊ほどになるとのことです。
それはどういう本であるのかと思いましたら、次のようにありました。
「最も活用したのは、文句なしに谷崎潤一郎の『細雪』だと思う。この文庫本
全三巻とともに、セーター三十枚ぐらい編んだのではないだろうか。続いて
金井美恵子の『恋愛太平記』と『噂の娘』、森茉莉の『贅沢貧乏』と「貧乏サヴァ
ラン』、武田百合子の『富士日記』などが控えており、田辺聖子の『苺をつぶし
ながら』、林芙美子の『放浪記』なども入る。」
とありまして、どの本も「『食』と『衣』に関する惚れ惚れするような描写が
ある」のが魅力とありました。
ここで斎藤さんがあげている本は、当方の架蔵しているものが多く、ないもの
は、ちょっと借りてみようかなと思うくらいに興味を覚えました。谷崎の文庫本
で全三巻というのは、当方もこれなら読むことができるかなと思って中古で買った
ほうだろうか、それとも定番のものだろうかなんて、あれこれ思案して楽しむこと
にです。
この文章のなかでは編み本に向かない本についても書かれていて、その理由も
あがっているのですが、このような読書というのもあるのですね。
「不思議なのは『源氏物語』で、与謝野源氏谷崎源氏円地源氏が軒並みNGだった
のに、田辺聖子訳だけは編めたことだ。田辺聖子の源氏物語だと、贈り物にする
衣の選び方などの描写がぐっと生き生きと感じられて、どんどん編めるのである。」
編み物を通しての読書論なんて、たぶん初めて目にすることでありまして、これ
は新鮮でありました。田辺聖子さんの本に手が伸びそうであります。