身辺雑記の楽しみ

 野暮用から戻りましたら、高松で投函した絵葉書が届いていました。

5日目となりますね、eメールでありましたら、瞬時に地球の裏まで届くので

ありますが、このようにゆっくりと行き交う私信をもっと楽しむようになれ

れば、すこしギスギスとした人間関係も緩和されるかもです。

これからは、のんびりと郵便でやりとりするというのは、料金も含めてひどく

贅沢なことになりそうであります。

 贅沢な時間の過ごし方というと、昨日に届きました山田稔さんの新刊「某月

某日 シネマのある日常」(編集工房ノア刊)を手にして、パラパラとめくり

ながら、気に入ったところでページをとめるというのも、気持ちが落ち着いて

ゆたかになったような気分になることです。

 ご本人は身辺雑記というのでありますが、御年91歳の小説家が、30年ほど前

に書いて「VIKING」に発表したものをベースに、それに加筆・整理して、今回

の本となったわけですから、そこには時間の経過による熟成のようなものが

加わっているはずです。

 思わず初出の文章にどのように手が加えられているのか、調べてみたいと思う

ことであります。

 本日に目にしたところで、これはと思ったところを引用です。

「『よむ会』で取り上げるので丸谷才一の『女ざかり』をよむが、あまりの下ら

なさに投げ出したくなる。張りぼて小説とでもいうか、新聞各紙では絶賛だが、

あれは一体何だ。」(1993年のもの)

 当方は丸谷才一さんの小説は、好んで読んでいたのでありますが、「女ざかり」

などはほとんど一度読んだっきりで、読み返すこともなしでありまして、今回

山田さんがこのような感想を残しているのを見て、意を強くしました。

 丸谷さんは長編小説は策に溺れるという感じで、むしろ中編のほうにいいもの

があるように思っていました。

 もう一つは1992年のもの。

「思えばカーソン・マッカラーズという作家を知ったのは映画『愛すれど心さび

しく』によってだった。・・・

 あとで原作『心は孤独な狩人』(1940)(河野一郎訳、新潮文庫 1972)を

よんでみて、映画のほうがずっといいと思った。だがこれをきっかけに以後私は

『結婚式のメンバー』(1946)その他、マッカラーズの小説の愛読者となる。」

 山田さんは、数年前に新訳がでたマッカラーズの作品を読まれたのかな。