昨日買った本 5

 丸谷才一さんは、それまで主流であった小説とは、違うものを生み出そうとしたので
ありますね。一番力を注いだのはほぼ10年に一度刊行される長編小説でしたが、当方は
「たった一人の反乱」以降にでた小説は、ほぼ刊行時に読んでいるものの、それをくり
返し、読んだという記憶がありません。再読しているのは「笹まくら」を別とすれば、
「たった一人の反乱」が数回でありますが、それからあとは、どの作品も一回読むのが
やっとでありました。仕掛けはおもしろいのですが、それが全体として小説の魅力を
増しているとも思えないのでした。
「女ざかり」は、丸谷作品としてはずいぶん話題になって、部数もそこそこ出た上に、
珍しく映画にもなったのでありますが、いかで主演に大女優を配しても、いまでは忘れ
られているようです。このへんから、丸谷さんの作品は、小生の読後感と丸谷さんの
とりまきの人たちの評価が、大きくずれてきたように思います。
 このインタビューでは、「女ざかり」が話題になるのですが、インタビュワーの次の
感想に対して、丸谷さんがかたっています。
「 編集部 祝祭的な、カーニヴァル的な展開というのが、最後の首相官邸のシーンに
 はある。そこへ入っていくことによって、ある解決の方向にすっと引っ張られるよう
 な感じがしたんです。
  丸谷 あの部分は自分ではまだ、書き上げたばかりみたいなもんだから、距離を
 置いてみるほど見えてないんだけれど、あの第八章は書いていて面白かったし、なん
 だかいい気持ちでした。要するに、あそこが書きたくて書きたくて仕方がなくて、
 それで書いているようなものでしょ。あとはそのための助走とそれから着地みたいな
 ものですよね。だから、第八章が書けないようでは話にならないわけです。」
 これまたずいぶんと正直に語っていることに驚きです。当方は「書きたくて書きたく
て仕方がなかった」というところをうまくまとめて中編にしてもらったほうが、楽しく
読めたのではないかと思うと同時に、「祝祭的な、カーニヴァル的な展開」ということ
になれば、その当時としては山口昌男さんがリードした切り口ですが、「忠臣蔵とは
何か」にも山口昌男への言及がまったくなかった(はず)のが、山口ファンの当方は
丸谷さんに違和感をもったものです。