まずはあとがきから

 図書館から借りてきた本を手にしています。ちょっと高くて手が出ないなと

思うものが図書館にありましたら、ありがたく借りてくることになりです。

いま借りているのは、白水社からでた美しい装丁のもので「中世の写本ができ

るまで」というタイトルになります。

 西欧中世の写本でありますので、ほとんど当方には縁がないものになります

が、過去を舞台にした小説などを読みますと、このような写本がでてきて、は

てどのようなものになるのだろうと思うことです。もちろん、最近でありまし

たらネットで検索をしましたら、情報はたくさんあるのですが、たとえば当方

が学生のころに辻邦生「背教者ユリアヌス」を読んだときには、まるでわから

ずでありました。

 カラー写真のページがいっぱいあって、目の保養となるものですが、この本の

監修者びあとがきには、この訳本がでるまでに関わってくださった方への言及

がありまして、あとがきから先に読んでいる当方は、これに好感をもつことに

です。

 監修者さんが、このように書いてくださらなければ、この本がこのような形

になってでることも、理解できないことです。あとがきのいわば「『中世の写本

ができるまで』の邦訳ができるまで」というところから引用です。

「本の装丁を担当したのは、ブックデザイナーの細野綾子さん。アメリカで

デザインと活版印刷を学んだ彼女は、中世写本に以前から興味があり、喜んで

今回の仕事の依頼を引き受けてくださった。正方形に近い変型版であった原書の

レイアウトを、A5版の本書の体裁に合わせて変更し、文字フォント、本文組、

さらには外装にいたるまで調和させることで、読みやすく上品な本書のトータル

デザインが完成した。」

 引用は省略した編集者さんの紹介と役割に続いては、装丁家の方の仕事をこの

ように記しています。

 当方は、これを見て、これの元版は正方形に近いもので、それに合わせたレイ

アウトが施されていたことに気付かされました。単に横書きが縦書きになったで

は終わらない作業が、この装丁家さんの仕事にはあったのかなです。

 これに続いて、印刷を担当した「三秀舎」さん、製本の「松岳社」さん、そし

て版元「白水社」の役割と仕事に言及します。こういうのは、ほんといいですよ

ね。そして、これの終わりには、こうあります。

「実は今回の出版企画で協働した皆様について、私は誰ひとりの顔も知らず、声

すら聞いたことがない。もし、町ですれ違ったとしても、お互いに素通りして

しまう間柄だ。・・・すべての作業はメール上で進められた。・・メールの文面

から立ち上がる各担当のお人柄を想像して共同作業を進めることが、中世の写本

という、時空間を越えた顔の見えないテキストに関する翻訳作業と重なりあい、

禁欲的愉悦を与えてくれたからである。」

 なるほどなと思うことで、あえてオンライン会議の手法をとらず、郵便ではな

く、メールのやりとりだけで作業を進めていくことの緊張感であります。

 昨年に手にした「北越雪譜」成立に関しての本にも、越後と江戸の間を出版を

めぐって書簡が行き交う様子が描かれていましたが、その昔は、これが当たり前

であったのですね。