一銭五厘の伝統かな

 図書館から借りている佐伯一麦さんの「アスベストス」を読んでおります。

 石綿アスベスト)によって肺に病気を発生した人たちのことを描いた連作集

でありまして、それは「長い時間をかけて迫りくる『時限爆弾』」といわれる

病気です。

 ちょっと前まで(調べてみましたら2006年に禁止とありました)石綿という

のは普通につかわれていました。外装の材料(スレート板)とか、鉄骨の耐火

処理などであります。

 禁止になったのは、もちろんそれが人体に有害であるということが判明したか

らでありますが、先進国では早々に禁止されたものが、この国では長く放置され

ることになりました。

 自らがアスベストによる胸膜炎を起こし、いつ重症化しても不思議でない佐伯

さんが同じような環境で作業をして中皮腫を発生したりした、同病の人たちに

かわって、不作為を告発し、その人たちは何を守って、何を切り捨てたのかとい

うことを描いています。

 最近は、ずいぶんと過去の鉄骨を使われた建物の解体にあっては、アスベスト

が使われているという前提にたって、慎重な作業がなされるようになっています

が、それでも時には無造作な(佐伯さんにいわせると犯罪的)工事もありまして、

そういうのが発覚しますと、いきなり工事は中断を余儀なくされます。

 このまちでも数年前にあった解体工事で、アスベスト対策が施されていないこ

とがわかり、かなり長期にわたって仕事がとまったことがありました。

こうした対策を施されない工事というのは、施設周辺の住民に及ぼす害と、それ

に作業に従事する人への対応も充分ではないでありましょう。

 佐伯さんが、この時代においてもなおこういう杜撰が横行していることを知っ

て、この連作集を出すことになったのでありましょう。

 それにしても、かって「一銭五厘」といわれた人の命は、すこしは価値が

あがっているのでありましょうか。