他人にいえない趣味 2

 昨日に引き続きで、他人にいえない趣味についてであります。

とはいっても、当方が手にしているのは小田光雄さんの「近代出版史探索」

でありますからして、ここで話題にするのは本の話となりです。

 しかし、他人にいえない趣味というのにはどんなものがあるだろうと考え

るとこれがなかなか楽しいことです。TVなどには、そうした趣味をカミング

アウトした人が登場したりしますが、こうしたカミングアウトする人が増え

ましたら、なにも隠すほどのことではなかったということになります。

 たぶん、そのむかしでありましたら女装趣味なんていうのは、そういうもの

の一つであったのかもしれませんが、今ではすっかり市民権を得ていて、たまに

羽目を外して道路で下着姿になったり、裸になって御用になったときだけ新聞

などで話題となりです。昨年かに、このようにして道路上で御用となったひと

義務教育学校の管理職でありまして、さすがにこれはまずいでしょう。

 小田光雄さんが「近代出版史探索」で話題としているのは、小林勇さんの

「隠者の焔」と青江舜二郎さんの「狩野亨吉の生涯」であります。

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近代出版史探索III

近代出版史探索III

  • 作者:小田光雄
  • 発売日: 2020/07/30
  • メディア: 単行本
 
隠者の焔 (1971年)

隠者の焔 (1971年)

 

  小田さんの文章の書き出しを引用です。

「狩野亨吉は夏目漱石を友人とし、日本の自然科学思想史の開拓者であり、

一高校長時代には田辺元たちに大きな影響を及ぼした。また京大文科大初

代学長として、幸田露伴内藤湖南などの大学出身者ではない碩学を招き、

 文部省と対立して辞職し、その後在野で過ごした。それでも安藤昌益など

の江戸思想家たちを発掘し、書画の鑑定販売を業とし、生涯を独身のまま

で終えた。」

 慶応元年に生まれて昭和17年に亡くなった狩野さんは、いまではほとんど

話題になることもなしです。これで慶応三年にでも生まれていれば、坪内

祐三さんが「旋毛曲がり」で取り上げてくれていたかもしれませんが、これ

は残念でした。

 当方が知るにいたったのは、小林勇さんの小説のモデルとなっているから

であります。その作品は「隠者の焔 小説狩野亨吉」とあるのですから、

狩野亨吉さんについては、ほぼそのままでそれに関わる語り手さんのところ

などがちょっとフィクションになっているようです。

 ということで、狩野亨吉さんの他人にいえない趣味でありますが、これも

ポルノグラフィに関係するものでありました。

小林勇さんの「隠者の焔」は容易に読むことができると思いますし、青江さん

の「狩野亨吉の生涯」も中公文庫版であれば、これも読むのは大変ですが

(当方もまだ読めていない)、確保するのは難しくありません。

 問題は、小田さんが記している次のくだりです。

「狩野の晩年までを追跡した青江舜二郎の『狩野亨吉の生涯』が昭和49年に

明治書院から出され、定かでなかった後半生までが描かれるようになった。

しかしそこに狩野が集古会の会員だったことと集古会に関する言及はなされて

いない。それに加えて、青江の評伝は中公文庫に入る際に、『亨吉と性』の章

が削除され、同じく集古会の岡田紫男が傾倒した江戸時代の性文化に狩野も

深く入り込み、自らも五百枚近い春画を描き、膨大なポルノグラフィを書いて

いた事実における、青江の解釈が隠蔽されてしまった。」

 ということで、小田さんは青江さんの「狩野亨吉の生涯」の中公文庫新版が

刊行のときには、削除された「亨吉と性」を復活して、狩野亨吉に関わる女性

についての推理が、小林勇説だけではないことを明らかにすべきといっている

のですが、こういう日はくるのでしょうか。

 現在も「狩野亨吉の生涯」明治書院版がバカ高い値段をつけているのは、

文庫版に削除があるからですね。

増補 狩野亨吉の思想 (平凡社ライブラリー)

増補 狩野亨吉の思想 (平凡社ライブラリー)

  • 作者:鈴木 正
  • 発売日: 2002/05/01
  • メディア: 単行本