一足早く八月

 ここのところ出版社PR誌の8月号が届いています。8月号というのは、

このくらいで手にできるのがよろしくて、あまり早すぎるのは如何なもの

かであります。いろんな業界の事情があってのこととは思うのですが。

 一番早くに届くのは「ちくま」ですが、これは表紙とその裏で小林エリカ

さんが世の中に異議の声をあげた女性について「彼女たちの戦争」という

タイトルで連載していまして、今月は「伊藤野枝」さんとなります。

 とびっきりパンクな日本の女性であります。小林エリカさんの文章の最後

のところは、次のようになりです。

「いま、百年後の世界を生きる私は、野枝が歩んだ道を振り返る。結局、野枝

の流した『苦痛に苦き涙』はあまりにも非道いものだったが、いまなお、地面

の下には、井戸の底には、彼女という存在が確かにあり、ひとりひとりの道は

その上に続いている。」

 「井戸の底に」とあるのは、もちろん伊藤野枝さんが殺されたあと古井戸に

投げ込まれたことによっています。

 こうした規格ハズレの先人たちのおかげで、現在があるというのは、男女を

問わずでありますが、特にずっと重しがのっていた女性たちにとっては、敗戦

後の憲法民主化政策は待ち望んでいたものでありましょう。

今は、すっかりそれが当たり前と思われているほとんどの女性をとりまく状況

は、いまから70年ほど前には夢物語でありましたから。

 いまから、ほんの50年まえには夫婦共稼ぎをするということは、極めて例外

的なことで、まして産休をとって働き続けるというのは、限られた職種にしか

認められておりませんでした。いまでも、女性は子どもを生んで育てるのが役

割という人が少なからずいますからね。

 最近の若い女性たちは、こうした先人のことをどのように受け止めているの

でありましょう。

 小林エリカさんに続いて巻頭エッセイは、金井美恵子さんでありまして、今

回が三回目。相変わらずですっきりとおちるような、のどもとにささるような

感じとなりです。

「私たちの国の芸能界では、新アルバム『存在理由』をリリースしたばかりの  

さだまさしが新聞のインタヴューに答えて、スピーチ・ライターの原稿を読み

あげる安倍首相の発言だと言われても不思議ではない、美しく正しい日本を

語る。」

 なんとなく、さだまさしのいう正論のようなものに納得しがちでありますが、

その発言を受け止める金井さんは、次のようにいうのです。

「自分の発言や歌が世間への影響力を持っていると信じきっているもの特有の

自信にあふれた厚顔な無感覚である。」

 「自信にあふれた厚顔な無感覚」とは、当方にもあるものでありまして、これ

は厳しい指摘であります。(ちなみに金井美恵子さんのこのコラムは、月遅れ

で「WEBちくま」で公開されます。) 

 これに続いては、斎藤美奈子さんが「小池百合子はモンスター?」というタイ

トルで「女帝 小池百合子」について書いています。

もちろん、斎藤さんのことですから、単純にこの本を批判するのではなく、この

本を激賞する「リベラル系男性論客」をもばっさりです。

都知事選前だったことを差し引いても、こんだけいわれりゃ読もうかなって

思いますよね。しかし私の率直な感想は『何が選挙前に読め、よ。だから選挙に

負けるんだよ』だったのだ。」

とあります。

 この本についての斎藤さんの批判は、「いくらなんでも予断がすぎる。対象が

誰であれ、ひとりの人物像を描く上で身体上の欠陥を起点にするのは完全にルー

ル違反だ。女性権力者には常に予断がついて回る。」

 斎藤さんは、別に「女帝」さんと言われる人のことを肯定しているわけでは

ないのですが、批判するのであれば、もっと本質なところでやっていかなくて

は、リベラルの名が泣くぜと思っているのでしょう。

 それにしても女性権力者というのは、不安定な存在でありますこと。

 こういうパンチの効いた文章を読みますと、男たちもしっかりしてくれよと

思ったりです。

女帝 小池百合子 (文春e-book)

女帝 小池百合子 (文春e-book)