手にしたが吉日で

 気ままな読書生活ですから、予定もなにもあったものではないのですが、図書

館から借りているものだけは、返却日が決まっていますので、もし読むのであれ

ば、それを意識することになりです。そうはいっても、当方が借り出しの本は、

めったに予約が入ることもなしで、借り出しの延長をお願いすればいいことで。

 ということで、本日は昨日に購入した瀬戸内晴美時代の小説「鬼の栖」を開い

てみることにです。この小説は「菊富士ホテル」を舞台にした、いわゆるグラン

ドホテル形式のものとなりです。

 作者が、このホテルに関心を寄せて取材を始めるところからの書き出しとなる

のですが、最初に次のようなくだりがありです。

「私が最近になって特に『菊富士ホテル』に関心を持ちはじめたのは、伊藤野枝

についてある小説を書いている途中で、主人公野枝と、その三度目の夫大杉栄が、

一時、やはりこのホテルに身をひそませた事実があったから、その当時をしらべ

たいという目的のためだった。その時私には、すぐ江藤華枝が浮かんできた。

華枝が学生時代から菊富士ホテルを叔母の家だとよく話していたのを思いだした

からだった。」

 ここを読んだだけでも、パーッと話が広がっていくような予感がしますよね。

「菊富士ホテル」「大杉栄伊藤野枝」そして「江藤華枝」でありますよ。

大正末期から昭和初期に、「菊富士ホテル」には知名人が多く下宿することに

なるのですが、かなり高級な下宿屋でありまして、どうしてそこに「大杉栄」な

どが下宿できていたのかでありますね。

 ちょうど、この時期にNHKBSでは伊藤野枝を主人公とするドラマが放送中で

ありまして、伊藤野枝吉高由里子さんが、大杉栄を演じるのは永山瑛太さんで

あります。大杉栄なんて、ドラマの登場人物として大丈夫かと思いながら、野枝

さんは、出奔して大杉と暮らし始めるはずですが、「菊富士ホテル」の部屋は

再現されるのかなと思ったりです。

 瀬戸内さんの小説を読んでいましたら、大杉栄は部屋代をまったく納めないと

いうことでありまして、その払わない手口なども書かれているのですが、平成の

西村賢太さんも十代で一人暮らしを始めた頃は、家賃を払うことをしないという

ライフスタイルですが、その先駆者が大杉栄でありましたね。

 ということで、とても楽しく瀬戸内さんの「鬼の栖」を読んでおりまして、こ

の読書は明日まで続きそうであります。

このあとは、すこし「菊富士ホテル」に関係する本を読んでみようかなと思わせ

るものです。この関係で、そのものずばりは近藤富枝さんの「菊富士ホテル」で

ありまして、彼女こそ「江藤華枝」さんでありますね。