始まりの一冊は除籍にあり

 日曜日の読売新聞読書欄の「始まりの一冊」は、スラブ文学者沼野充義

さんのデビュー作となった「屋根の上のバイリンガル」を取り上げていました。

  最初にでたのは筑摩書房(1988年)が版元です。奥付には発行者関根栄郷

とありますので、民事再生した筑摩書房はいまだ再建途上にありました。きびしい

経営環境にありましたので、刊行物は厳選されていたはずであります。

表紙の平野甲賀さんの文字をみますと、晶文社のようにも思えますが。

 当方がこれを手にしたのは、白水社が新書で刊行してくれたことによります。

  USAにおけるユダヤ世界への理解とか、ポーランド移民社会のことなどを

知るためには絶好の一冊でありまして、子どものころにコワルスキーとか、

ヤストレムスキーなんて名前の米国人の活躍を不思議に思っていましたが、その

ような人のことが気になってです。

 こういったことについて、この本では次のように書かれているのでした。

「実はアメリカには五百万人(別の統計によれば六百万人)以上のポーランド

の人口があって、彼らのもらたらしたポーランド語の固有名詞の数々は確実に

アメリカ英語の現実の一部になっているのである。

 実際問題として、アメリカの現代小説を読んでいても、ノンフィクションを読んで

いても***スキーという姓を持ったアメリカ人がでてくることがよくあるはずだが、

その大部分はポーランド系といっていい。『スキー』という語尾をもつ姓はポー

ランド語以外のスラブ語(ロシア語やチェコ語)にも広範に存在しているのだが、

人口を比べるとアメリカ合衆国のスラブ系移民の中ではポーランド系が圧倒的

に多いのである。」

 ということで、「スキー」名前の一つとして、「Carl Yastrzemski」があげられ、こ

れには「ボストンレッドソックスの花形野球選手。

ポーランド語ではヤシュチュシェムスキだが、アメリカではヤストレムスキとなる。」

と記されているのでした。

 刊行されて30年でありますが、残念ながらこうしたことについての理解が日本

で広がっているとは思えないことであります。

 そんなことをいうのは、数ヶ月前に図書館へといったときに、入口近くにおかれ

除籍本コーナーに、どうぞお持ちくださいとこの「屋根の上のバイリンガル」が

出されていたのですが、これってどうしてなのと思いながら、ありがたくいただい

たのですが、調べてみましたら複本であったものを処分したものではないようで

沼野先生の始まりの一冊について、これでいいのかなであります。

 ちなみに沼野先生はこの三月で東大で定年退職で、最終講義はyou-tubeで

中継するのだそうです。3月28日(土)16時からとのこと、だれでも視聴が可能

らしく、これは楽しみです。

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