ここでもう一冊

 図書館を利用して本を借りようとしますと、カウンターのところにあと一冊いか

がですかという文書が目にはいります。もちろんこれは図書館が図書の貸出数

で評価されることがあったりするせいでもあります。

 「奥様ここでもう一品」というのは、北海道の午後に放送されているバラエティ

番組の人気コーナーでありまして、「もう一品」というのは、ご飯のおかずというこ

とになります。

 「ここでもう一冊」というのは、これを真似た言い方ではありますが、ブックオフ

などでワンコイン予算で均一本を買う場合、予算に余裕があるときに、「もう一冊』

となるわけです。

 昨日のブックオフでのもう一冊は、次のものでありました。

自動起床装置 (文春文庫)

自動起床装置 (文春文庫)

 

 辺見さんの芥川賞受賞作品となりです。最近は硬派の論客として名前を知られ

ていますが、小説でデビューしたときには、まだ共同通信社の記者さんでありまし

た。受賞作は100ページくらいですから、読むのは難しくなさそうですが、その前に、

この文庫巻末の解説に目を通すこととなりです。

 解説は作家 村田喜代子さんであります。解説は「深夜不可思議ノ刻座談会」

というタイトルです。

 座談会は司会者の村田喜代子さんがゲスト田中いわ子さんを招いて、この作品

について語りあうものなのですが、この一番最後のところで、これの種明かしがあり

ます。

 この座談会は場所は中有というところで行なわれるのですが、ゲストは故田中い

わ子さんで、平成4年10月7日、福岡にて没。享年60歳と、司会者は村田さんで

作家、福岡在だそうでです。 

 このあとに「自由な一読書人であった田中いわ子さんのご冥福を辺見庸氏と

ともに祈ります。」とあります。

 ということで、この座談会は、この作品が発表されてまもなくに、これを読んで

高く評価した村田さんの友人である田中いわ子(すでに亡き)との対話となって

いるのでありました。

 これって何度も使える仕掛けではありませんが、辺見さんの作品を評価した

無名の人が、こういう形で名前を残すというのがうれしいですね。たぶん、この発言

には、存命中の田中さんの言葉がいかされていると思うのですが、田中いわ子さん

の存在も含めて、まるでフィクションであったりして。