本日の件名を「ちびちびと読む」としてから、「ちびちび」なんて言葉あった
ろうかと思って調べてみることになりです。ちびちびとひくと、酒をちびちびと
ありましたので、この使い方でいいのでありますね。
昨日に届いた山田稔さんの「門司の幼少時代」でありますよ。今回の本は
純米大吟醸の二合瓶入りという感じのもので、酒の好きな人であれば、一息
で呑んでしまいそうな量ですが、大吟醸でありますからして、小さなお猪口で
ちびちびとのまなくてはもったいないことです。そんなに大事にして呑んでい
たら、味がかわってしまうよと言われたりしますが、酒と違って散文の場合は
そのようなことはありませんです。
本日に読んでいたところにあったくだりの紹介。
「坂道を挟んでわが家の向かいにノグチという巡査の家があった。ノブオという
私より一つか二つ年下の子がいた。ひ弱な、おとなしい子だった。母親は『肺病』
とかで、わが子が外で私たちと遊んでいると、家から髪をほつらせた蒼白い顔を
のぞかせ、弱々しい声で『ノブオ、おかえり』と呼びもどすのだった。」
当方は、山田さんよりも三歳ほど年長のオザワ ノブヲさんのことが頭に思い
浮かびました。もちろん子ども時代の山田さんと小沢さんには接点はまったくな
いのでありますが、それでも同じ時代の空気感を感じることです。
上に引用したところでは母が結核となって「ノブオ、おかえり」と声をかけるの
ですが、小沢信男さんはご本人が結核となって、「当時はつける薬もなく、ぶらぶ
ら寝たり起きたりの半病人で」とありました。
戦前から戦後まもなくまでは結核は死病でありまして、山田さんが幼少の頃は
結核患者の家の前は避けるようにといわれていたはずで、世間に迷惑をかけな
いとすれば、子どもの行動にも制限を加えることになったのでありましょう。
元気よく外で遊んでいる子どもが自宅に戻ってきたのを「おかえり」と迎える
のではなく、他の子どもたちに病気をうつさないようにということからの「おかえ
り」であります。
そういう時代があったのであります。