これを持参するのであった

 先週からの関西旅行には寺尾紗穂さんの「南洋と私」だけをリュックに入れた

のでありますが、そういえばその近くの本の山のなかに池内紀さんの新書本が

埋もれていました。これがあったことをすっかり忘れていました。姫路まで足をの

ばしたこともあって池内さんの本を持参すべきであったと、今になって強く思うこ

とであります。

 京都で食事をとる約束があってその場所の近くで時間調整をしていた時、そこ

から5分くらいのところにある本屋さん「誠光社」へと駆け足で訪れました。

ほんと時間の余裕がなかったので、ざーっと池内さんのエッセイでもないかと

思って棚をながめたのですが、白水社からでたカフカの翻訳しか見つからず、

これはちょっと重いということで、パスしてしまいました。それもあって、今回の旅

では本を買うことができなかったということになりです。

 池内さんの訃報に接した日に、知人が当方に貸してくれたのが池内さんの

「ひとり旅は楽し」でありました。

ひとり旅は楽し (中公新書)

ひとり旅は楽し (中公新書)

 

  この本のあとがきで次のように書いています。

「 高校二年の夏休みに、列車を乗り継いで本州一周をした。いま思えば幼い旅だっ

たが、記憶がしばしばそこにもどっていくから、『旅歴』といったものの始まりだったの

だろう。・・・・以来、半世紀ちかくになる。たいていはひとり旅だ。 」

 幸いにしてでしょうか、当方の旅はたいていの場合二人旅でありまして、そこが池内

さんと違うところであります。まあ二人で旅すれば楽しみも二倍とはいかないものの、

あとで、あのときはああだった、こうだったと話することもできることです。

 この本の最初の章には、「島に渡ると」という文章がおかれていますが、それには

次のようにありです。

「 わが郷里は兵庫県姫路市、瀬戸内の城下町であって、裏山にのぼると銀色に光る

海と、大小さまざまな島が見えた。ひとかたまりになっているのが家島群島で、幼いこ

ろ、いつも夏になると海水浴に行った。臨海学校がひらかれた。」

 この本を持参していれば、きっと池内さんが目にした風景を見てみたことでありま

しょう。これは残念でありました。